
消費者団体訴訟制度を活用しよう!
~消費者被害に遭ったときに~
悪質な事業者に対して「不当な行為をやめさせたい」「お金を取り戻したい」などと思っていても、個人で訴訟を起こすのは時間や費用がかかる、手続きが複雑などの理由であきらめている方も少なくないかもしれません。今回の特集では、「消費者団体訴訟制度」を中心に、消費者トラブルに遭ってしまった場合に、消費者が利用できる制度などをご紹介します。

市場の公正さを高めるために
商品を購入したり、サービスを利用したりするときに、消費者トラブルに巻き込まれてしまったら、どうしますか。まずは当事者間でよく話し合って解決することが基本です(民法の私的自治の原則)。しかし、相手によっては話し合いにならない場合もあります。
民事訴訟を利用する方法もありますが、消費者トラブルの解決には使いにくい面があります。消費者と事業者の間には情報力や交渉力に差があり、訴訟で必要な証拠等も事業者側に偏在するといった格差があるからです。また、少額の被害が多数の消費者に発生するため、個々の消費者が費用と労力をかけて訴訟を起こすメリットがあまりないという事情もあります。
それでは放置しておいてもよいのでしょうか。消費者が泣き寝入りをすると、悪質事業者が増え、消費者が安心して商品の購入やサービスの利用ができなくなり、市場全体の公正さが失われます。このため、個々の消費者が裁判を起こすことが難しい場合、消費者団体にその役割を担わせる特別な制度があります。
「消費者団体訴訟制度」とは
消費者団体訴訟制度とは、内閣総理大臣が認定した消費者団体(適格消費者団体・特定適格消費者団体)※1 が、消費者に代わって事業者に対して訴訟などを行うことができる制度です。「差止請求」と「被害回復」の二つがあり、日本の裁判制度の中でもユニークな制度です。
※1 東京都内には、適格消費者団体が2団体、特定適格消費者団体が1団体あります。(令和7年2月現在)
差止請求
「適格消費者団体」が不特定多数の消費者の利益を擁護するために、事業者の不当な行為(不当な勧誘、不当な契約条項、不当な表示など)をやめるように求めることができる制度です。
不当な行為が改善された事例
- 特定の薬効が期待できると消費者を誤認させる健康食品の広告表示に関する差止め
- エステティック契約における勧誘場所からの退去妨害と中途解約妨害に関する差止め
- 建物賃貸借契約書における後見開始等を理由とする契約解除に関する差止め
適格消費者団体は、消費者から寄せられた情報などを基に内部検討し、事業者に改善の申し入れをします。改善されない場合は、差止請求訴訟を起こすことができます。
被害回復
適格消費者団体の中から内閣総理大臣が認定した「特定適格消費者団体」が、多数の消費者に共通して生じた財産的被害について、訴訟を通じて集団的な被害の回復を求めることができる制度です。
被害回復の訴訟手続きは、第1段階(事業者に消費者への金銭支払義務があるかどうか)と、第2段階(誰にいくら支払うか)に分かれます。特定適格消費者団体が第1段階で勝訴した場合には、対象となる消費者に通知・公告を行い、第2段階の手続きへの参加を呼びかけます。
被害回復が認められた事例
大学入試において、女性や浪人生の出願者が不利となる得点調整が行われた事例。そのような合否判定基準が事前に明らかにされていれば出願しなかったといえる関係があることが認められ、支払済みの入学検定料等が返還されました。


差止請求や被害回復裁判の結果は消費者庁のCOCoLiS(消費者団体訴訟制度)ポータルサイトや適格消費者団体のホームページなどで公表されます。
なお、消費者団体訴訟制度は、不特定多数の消費者の利益を守るための制度ですが、個別の利益を守るために、同じ被害を受けた消費者が弁護士を通じて集団で訴訟を起こす方法もあります。費用を分担でき影響力も大きくなりますが、悪質な弁護士によるトラブルも存在します。弁護士を選ぶときは評判や実績を確認して信頼できる人に依頼しましょう。
ご自身のトラブル解決に
ここまで紹介してきた消費者団体訴訟制度は、多くの消費者の利益を守るためには有効ですが、個別の問題解決にすぐに役立つものではありません。
そこで、消費者トラブルに遭ってしまったときの相談先について、いくつかご紹介します。
消費生活センター
地方自治体には消費生活センター(もしくは相談窓口)が設置されており、消費者トラブルに遭った際に相談すると助言が得られたり、場合によっては事業者側との交渉をサポート(あっせん)してもらえたりします。民事紛争である消費者トラブルにどうして行政機関が関わるのかというと、その理由は消費者団体訴訟制度と同様で、消費者と事業者の間にある情報力・交渉力等の格差を是正するためです。
行政型ADR
ADRとは裁判外で紛争解決を図る手続きのことで、消費生活センターの活動も含みますが、東京都ではさらに消費生活条例により、消費者被害救済委員会という仕組みが設けられています。これは、消費生活センター等の相談機関に寄せられた苦情・相談のうち、都民の消費生活に著しく影響を及ぼし、または及ぼす恐れのある紛争について知事の付託により、あっせん・調停を行うものです。
また、国民生活センターの紛争解決委員会でもADRを行っています。対象が重要消費者紛争(解決が全国的に重要であるもの)に限られるなどの制約があるものの、法律学者や弁護士、消費生活相談員などからなる委員による和解の仲介や仲裁を受けることができます。
その他のADR
弁護士会や司法書士会によるADRがあります。東京都の場合、東京弁護士会紛争解決センター、東京司法書士会調停センターなどです。費用はかかるものの、個別に裁判所の調停を行うより簡便で迅速な手続きができるという利点があるようです。
また、事業者団体によるADRもあります。例えば、製品の欠陥や不具合による被害を受けた場合の民間のADR機関としてPLセンターなどがあります。その他、さまざまな分野で国の認証を受けた機関があります。
法テラス
市民による司法制度の利用を支援するために、総合法律支援法に基づいて設置されました。トラブルの内容に応じて、法制度や相談窓口など解決に役立つ情報を無料で提供してくれます。
皆さんの被害情報を活かそう!
消費者被害の防止・救済のために、皆さんからの情報提供がとても重要です。不当な勧誘や表示、契約条項などによる消費者被害に遭ってしまったら、次の二つの入口からその情報を活かしていきましょう。
まずはご自身のトラブルを解決するために、全国共通の電話番号188番(消費者ホットライン)から消費生活センターに相談してください。それが全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)で行政内に共有され、さまざまな消費者政策につながっていきます。
次に、不特定多数の消費者が被害に遭わないようにするために、消費者団体訴訟制度を活用していきましょう。適格消費者団体は民間団体のため、PIO-NETの情報とはつながっていません。各団体のホームページ等から情報提供をぜひお願いします。
東京都内の適格消費者団体
- 特定非営利活動法人 消費者機構日本[特定適格消費者団体]
03-5212-3066 https://www.coj.gr.jp/
- 公益社団法人 全国消費生活相談員協会
03-5614-0543 https://zenso.or.jp/
- COCoLiS(消費者団体訴訟制度)ポータルサイト
https://cocolis.caa.go.jp/
相談窓口
- 消費者ホットライン 局番なし
188
