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今月の話題

所有者不明土地の解消のための法改正 ~相続登記申請の義務化など~

司法書士
山田(やまだ) 茂樹(しげき)

土地の相続などの際に所有者についての登記が行われなかったなどの理由で、所有者がどこの誰なのか分からない土地が発生し、問題となっています。「所有者不明土地」発生の未然防止と解消のため、令和3年4月に、法改正がありました。このことにより、土地の所有者などに新たな義務が生じたり、消費者トラブルが発生したりする恐れもあります。

新たなルールになる前に、相続登記申請の義務化と相続土地国庫帰属制度を中心にお伝えします。

「所有者不明土地」の増加と問題点

わが国では、土地や建物の所有者等は、その所管の登記所(法務局)に備えられた不動産登記簿に登記されています。一般的には、①相続により土地の所有権を親から引き継いだ、あるいは、売買により土地を購入したといった事情で所有者が変更された場合、②転居や婚姻等により所有者の住所や氏名が変更になった場合などは、司法書士が当事者から依頼を受けるなどして、登記簿上の所有者やその住所等を変更する登記手続き(「権利の登記」といいます。)が行われています。

したがって、登記簿を調査することは、ある土地や建物の現在の所有者を確認するための重要な方法であるといえます。

他方、権利の登記は、権利関係を第三者に対抗するために公示する制度であって、義務ではないため、登記手続きを行うか否かは任意です。

このため、わが国では、さまざまな要因から相続登記などが行われないことなどにより、「不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地」「所有者が判明してもその所在が不明で連絡がつかない土地」が発生しています。これを「所有者不明土地」といいます。その規模は、九州本島の土地面積を超えるといわれています。

所有者不明土地は、所有者の探索に多大な時間と費用が必要であり、土地が管理されず放置されることが多く、共有者の一部が所在不明の場合に土地の管理・利用のために必要な合意形成が困難です。そのため、防災対策のための用地買収などの公共事業や土地取引が円滑に進まず土地の利活用が阻害されたり、土地の管理が不十分となり近隣土地への悪影響が発生したりするなどの問題点があります。

法改正の概要

「所有者不明土地」発生の未然防止と解消のため、令和3年4月に、民法と不動産登記法が改正され、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が制定されました。

その主な内容は、①「手続きの促進」(相続登記申請の義務化、住所等の変更登記申請の義務化)、②「土地の有効利用を促進させる措置」(共有制度の見直し、相隣関係(隣近所との土地の利用などに関するもの)の規律の見直しなど)、③「相続手続きの促進を図る措置」(長期間経過後の遺産分割のルールの導入など)、④「管理・利用されない土地は国の責任において管理を図る措置」(相続土地国庫帰属制度)です。

このうち、相続登記申請の義務化と相続土地国庫帰属制度についてみていきましょう。

相続登記申請の義務化

不動産登記簿上の所有者について相続が開始した場合、相続または遺贈により不動産の所有権を取得した相続人は、「自己のために相続開始があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内」に、①「相続」を原因とする所有権移転登記申請(ア.遺言または遺産分割協議に基づく場合、イ.法定相続分の割合による場合)、②「遺贈」を原因とする所有権移転登記申請、③「相続人申告登記」の申出のいずれかをすることが義務付けられます。
※遺贈…遺言により遺言者の財産を無償で他人に譲与すること

なお、「法定相続分の割合による登記」(①イ)または「相続人申告登記」の申出(③)は、最終的に相続により不動産を承継する者が決定していない、あくまでも暫定的な登記です。したがって、これらの登記がなされた後で、遺産分割協議が成立して、確定的に相続する者が決まったときは、「遺産分割の日から3年以内」に相続登記の申請をすることが、追加的に義務付けられました。

相続人申告登記

「相続人申告登記」は、「登記簿上の所有者について相続が開始したこと」と「自らがその者の法定相続人であること」を報告的に申出することにより、登記官が職権で、当該申出をした者の氏名および住所等を所有権の登記に付記する制度です。この登記は個々の相続人が個別に行う手続きです。この申出により、相続を原因とする所有権移転登記の申請義務を履行したものとみなされます。

義務違反の場合

「正当な理由」がないのに義務に違反した場合は、過料適用の対象となります。

「正当な理由」については、今後、通達等で明確化することが予定されています。また、あらかじめ登記官が、履行期間を経過した相続人に対して催告し、それでも正当な理由なく登記申請をしなかった場合に、過料に処することが想定されているようです。

相続土地国庫帰属制度

使い道がなく処分に困っている土地は、所有者不明土地となってしまうリスクを抱えています。それを予防するために、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により取得した土地を手放して、国庫に帰属させることを可能とする制度が創設されました。具体的には、①承認申請、②法務大臣(法務局)の要件審査および承認、③申請者が負担金を納付、④国庫帰属という流れとなります。

なお、同法では、通常の管理または処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地については対象外となります(要件詳細は今後政省令で定められる予定です)。主な例として、建物・工作物・車両等がある土地、土壌汚染や埋設物がある土地、危険な崖がある土地、境界が明らかでない土地、担保権等の権利が設定されている土地、通路など他人による使用が予定される土地などがあります。

このため、必ずしも、相続人の希望に応じて、同法の制度に基づいて土地を手放すことができるとは限りません。

いつから法律が施行されるのか

法律は段階的に施行されます。施行日は、相続登記申請の義務化については令和6年4月1日、住所等の変更登記申請の義務化関係については令和8年4月までに施行(現時点では未定)、相続土地国庫帰属制度は令和5年4月27日、その他は令和5年4月1日です。

なお、相続登記申請の義務化や住所等の変更登記申請の義務化など、法施行前の事案でも、さかのぼって適用される規定もあります。つまり、法施行前に所有者が亡くなった相続などにも適用されるので注意が必要です。

今回の改正により想定される不動産トラブル(原野商法二次被害など)

相続登記の申請が義務付けられた結果、今まで故人名義のまま放置されていた土地についても、登記簿上に現在の所有者または相続人の「住所」および「氏名」が公示されることになるでしょう。これらの情報を基に、事業者が、相続人等へ今回の法改正をネタに不当な勧誘を行うケースが増加することが予想されます。

原野商法二次被害では、「相続登記申請が義務化され、義務違反は過料処分の対象となった」ことも、不安をあおる材料として利用されることが予想されます。その他、国庫に帰属させることが困難な土地について、処分に困っていることにつけ込まれるなどのトラブルが発生することも考えられますので、ご注意ください。契約などに不安を感じたら、お近くの消費生活センターにご相談ください。

以上、簡単に今回の法改正の概要について解説しました。本稿により、今回の改正内容を正しくご理解いただき、円滑な相続手続きの推進とトラブルの防止につながることとなれば幸いです。

日本司法書士会連合会では、全国の司法書士会に「相続登記相談センター」を開設しています。
相続登記等に関する相談について、ご利用ください。

電話0120-13-7832(いさんのなやみに)

消費生活相談については、消費者ホットラインをご利用ください。

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