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身近にあるフェイクニュース、誰もがだまされる!?

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
准教授 山口 真一やまぐち しんいち

 インターネットが普及して、私たちはこれまでよりはるかに多くの情報に接するようになりました。しかし、その中にはフェイクニュースといわれるうその情報もあります。
 実はフェイクニュースは私たちの身近に存在しており、75%以上の人がだまされるという調査結果もあります。そのような中で何に気を付けて情報に接すればよいのか、そのポイントをご紹介します。

身近にあるフェイクニュース

 「深く息を吸って10秒我慢できれば、新型コロナウイルスに感染していない」「新型コロナウイルス感染症は26度のお湯を飲むと予防できる」…コロナ禍において、こういった情報が、SNSやメッセージアプリ、直接の会話を介して駆け巡りました。これは世界中で起こった現象であり、「メタノールを飲めば治る」などの危険な情報を信じた人が、実際に飲んで亡くなってしまうケースが、少なくとも800件以上確認されています。
 これらは全て、フェイクニュースといわれるものです。フェイクニュースとは、文字や映像などの誤った情報で、公共に害が与えられるもの全般のことを指します。
 フェイクニュースは、新型コロナウイルス関連のものだけではありません。政治的なものもあれば、私たちの生活を混乱させるようなものもあります。例えば、2016年の熊本地震では、動物園からライオンが逃げたという投稿がSNSでなされました。投稿は瞬く間に拡散され、地域の人々は動揺し、動物園には電話が殺到して混乱をもたらしました。しかしこれは全くのうそで、投稿者は悪ふざけで投稿しただけだったのです。
 また、2020年2月には、「トイレットペーパー生産の多くは中国で行われており、新型コロナウイルスの影響で輸入が止まって在庫が無くなる」というフェイクニュースが出ました。マスメディアがこの情報が誤っていることを報じ、買い占めをしないよう注意喚起をしましたが、スーパーで商品棚が空になっている映像も相まって、人々の不安を駆り立てました。その結果、「無くなる前に買おう」と思う人が増え、結局トイレットペーパー不足による社会の混乱が2カ月ほど続きました。
 このように、フェイクニュースは大きな社会的影響をもたらします。災害時のもの、医療健康系のもの、企業に対するものは、生活や経済の混乱をもたらします。また、政治的なものは、社会の分断を加速させ、選挙結果に影響を及ぼすこともあり得ます。さらに、フェイクニュースが一部にあることで、世の中の情報全般に対する信頼が失われ、私たちは常にその情報が本当かどうか検証する必要が出てきます。

真実よりうその方が広まる

 米国の研究では、フェイクニュースの方が普通のニュースよりも拡散スピードが速く、その範囲も広いということが明らかになっています。
 10万件以上のツイッターの投稿データを分析した当該研究では、真実が1500名に到達するには、フェイクニュースよりも6倍の時間がかかっていました。また、フェイクニュースの方が、真実よりも70%も多く拡散されやすいことも明らかになりました。
 なぜフェイクニュースの方が広く拡散されてしまうのでしょうか。その理由には、次の二つがあります。
 第一に、目新しいためです。人は目新しいものが好きで、目新しいニュースの方が拡散されやすい傾向にあることが分かっています。そして、フェイクニュースと真実について分析したところ、目新しさに関するどんな指標と照らし合わせても、フェイクニュースが真実を上回っていたのです。
 これは考えてみれば当然の話です。真実というのは、地味で地に足のついたものです。一方で、フェイクニュースは言ってしまえば創作なので、いくらでも目新しい内容にできます。あまりに奇抜であればうそと見抜かれてしまいますが、真実味を混ぜたうえで、目新しくセンセーショナルにすることはたやすいというわけです。
 第二に、怒りや不安は拡散されやすいためです。SNS上では、人の感情の中で、怒りや不安の感情が最も拡散されやすい一方で、安心や好きといったポジティブな感情は拡散しづらいことが分かっています。そして、フェイクニュースは怒りや不安をあおるような内容が多いです。
 実際、私の研究では、フェイクニュース拡散の動機として「怒りを感じたから」「不安を感じたから」といったものが多くなっていました。

フェイクニュース、誰もがだまされる!?

 フェイクニュースなんかには自分はだまされない、そう思っている人も少なくないかもしれません。しかし、私が2020年に調査した結果、フェイクニュースを知った後にそれをうそだと見抜けていない人は、なんと75%以上に上ることが分かりました(図1)。4人に3人以上の人は、フェイクニュースにだまされているといえます。さらに、その傾向は年齢によってほとんど変わらなかったのです。つまり、フェイクニュースは若い人だけの問題ではなく、老若男女問わず皆に関わる問題といえます。

図1 フェイクニュースをうそだと見抜けていない人の割合

 また、最近米国で発表された研究では、大半の人は、ニュースが本当かどうか判断する自分の能力について、実際の能力よりも高く考えていることが明らかになりました。加えて、そのように自分を過信している人は、むしろフェイクニュースにだまされやすい傾向が見られたのです。
 フェイクニュースに「私はだまされない」はありません。一人一人が自分もだまされる可能性があることを認識して、気を付けていくことが大切です。

私たちにできること

 では、どのように気を付ければよいのでしょうか。気を付けるべきポイントとして、次の3点があります。

投稿・拡散する前に一呼吸おいていろいろな情報に当たってみる

 私たちは目の前のスマートフォンを使って、一瞬で情報を投稿したり拡散したりできるようになりました。これはとても便利ですが、同時に、「自分で考える」ということをつい忘れがちです。
 何か情報を知ったとき、それについて投稿・拡散する前に、一度それが本当かどうか考える癖をつけましょう。ネットで他の情報源に当たるだけで十分に情報検証は可能です。例えば、新型コロナウイルスについてであれば、厚生労働省のウェブサイトを見るだけでさまざまな情報が得られます。その他にも、マスメディアのウェブサイトを見たり、専門家の発信を見たり、SNSの検索で他の人の反応をいろいろ読んだりするだけでも効果があります。
 自分で考え、自分で疑問を持ち、自分で情報を取得しながら考えることが大切です。特に、怒りや不安を感じて思わず拡散したくなったときほど要注意です。

家族・友人・知人からの情報も注意

 私の研究では、フェイクニュースの拡散手段として最も多いのが「家族・友人・知人への直接の会話」で、次点が「家族・友人・知人へのメッセージアプリでの伝達」でした。フェイクニュースはSNSだけの問題ではありません。
 コミュニケーション研究では、「近しい人の話は、専門家よりも信じやすい」という結果が出ています。つまり、私たちは家族・友人・知人の話を信じやすいわけです。
 しかし実際には、近しい人だって間違えることはあります。言われた情報をすぐうのみにするのではなく、自分でも調べることが重要です。

真偽が分からなかったら拡散しない

 いろいろな情報源に当たっても、結局正しいのか間違っているのか分からないことは少なくありません。特に、新型コロナウイルスのように未知のウイルスが到来したときなどは、専門家ですら見解が異なることがあります。
 そういった場合に私たちができることは一つです。その情報を拡散しないことです。フェイクニュースの真偽判断が確実にできるとは言えませんが、拡散しないことは誰もが確実にできます。例えば「2020年4月1日に東京でロックダウンが起きる」というフェイクニュースがメッセージアプリを中心に拡散されましたが、このような真偽のほどを確かめようがない情報が来た場合は、自分でとどめておけばよいわけです。
 以上三つを一人一人が守るだけで、フェイクニュースの拡散力は弱まります。そう、まさに各人がマスクをするなどでウイルスの拡散を防ごうとしているように、情報に対してもそのように気を付けることで、フェイクニュースというウイルスの拡散を抑え込むことができるわけです。

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