カスハラのない社会へ
~東京都カスタマー・ハラスメント防止条例とは?~

働く人へのカスタマーハラスメントは、セクハラやパワハラなど従来の職場のハラスメントとは異なり、ハラスメントを行う人が職場の外にいるため、事業者の努力だけでは防ぐことは困難です。このため、東京都では、令和7 年4 月1 日に、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行しました。カスハラのない社会をつくるために、条例の内容や、カスハラの代表的な類型、上手な意見の伝え方のポイントなどをお知らせします。
はじめに
「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(以下「条例」という。)」は、顧客等の豊かな消費生活、働く人の安全・健康の確保、事業者の安定した事業活動の促進により、公正で持続可能な社会の実現に寄与することを目的としています。また、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」という。)を社会全体で防止することや、顧客等と就業者が対等の立場で相互に尊重することなどを基本理念としています。
労働環境の問題にとどまらず、持続可能性や快適な消費環境の実現を強調している点がポイントです。また、条例の解釈や運用方法を示す「ガイドライン」も策定しました。
カスハラとは
条例において「カスハラ」とは、①顧客等から就業者に対する、②著しい迷惑行為であり、③就業環境を害するものとし、①から③まですべて満たすものが該当します。
②の「著しい迷惑行為」は、暴行や脅迫などの違法な行為、または、正当な理由のない過度な要求や暴言などの不当な行為を指します。
「違法な行為」とは、刑法などに抵触する行為で、犯罪として処罰される可能性もあります。「不当な行為」とは、要求の内容が妥当でないものや、大きな声を上げて秩序を乱すなど「行為」の手段・態様が不相当であるものを指します。不相当であるか否かの判断には、行為に至る経緯(就業者の言動がきっかけとなる場合もあります。)、行為がどのくらい継続しているか、業種の特質、就業者と行為者との関係性等の要素を総合的に考慮する必要があります。

※事業者は、就業者をカスハラから守るとともに、行為者にならないための対策や、必要な措置を講じるよう努める。
③の「就業環境を害する」とは、就業者が身体的または精神的な苦痛を与えられたことで、業務遂行上、看過できない程度の支障が生じることとしています。
さらに、条例では、各主体を「事業者」、「就業者」、「顧客等」と定義しています。「事業者」とは、官民問わず都内で事業を行う法人や団体、個人事業主を指し、東京都や区市町村のほか、国の機関も含まれます。
カスハラを受ける側を「就業者」と表現し、都内で業務に従事する者と定義しています。有償・無償を問わず働く人は全て対象とし、フリーランスやボランティアなども含まれる点もポイントです。
カスハラをする側になり得る人は「顧客等」と表現しています。「顧客」とは、商品やサービスの提供を受ける人であり、商品の購入を検討している人や飲食店で列に並んでいる人のほか、行政サービスを受ける人なども対象となります。
また、顧客「等」には、「就業者の業務に密接に関係する者」を含みます。例えば、配達員が配達先の近隣の方から迷惑行為を受けるケース、道路工事の現場作業員が周辺住民から法外な騒音対策を求められる場合などを想定しています。
大切な視点の一つは、誰もが、ある場面ではカスハラを受ける「就業者」に、別の場面ではカスハラをする「顧客等」になり得るということです。
カスハラの行為者・被行為者の例

カスハラの代表的な行為類型
❶要求内容が妥当性を欠くケース
カスハラに該当し得る代表的なケースです。商品に欠陥がないにも関わらず交換を要求する、就業者にとって全く関係のないことを根拠に賠償を要求するなどの行為を指します。こうした要求は、そもそも拒否できますが、継続して執拗に行われる場合や、暴言や脅迫を伴った場合にカスハラに該当します。
❷要求内容の妥当性に関わらず、要求を実現するための手段や態様が違法、不相当なケース
殴る、蹴るなど身体的な攻撃や危害を加える言動は違法でありカスハラに該当します。これらは当然、暴行罪や脅迫罪など処罰の対象となる犯罪行為に該当します。また、威圧的な言動、拘束、個人への嫌がらせなどの不相当な行為も該当します。
❸要求内容の妥当性に照らして、要求を実現するための手段態様が不相当なケース
商品やサービスに瑕疵があった場合に何らかの対応を求めること自体は消費者の正当な権利ですが、著しく高額な金銭賠償や入手困難な商品の提供を要求する行為は、不相当な行為といえます。「法律を変えろ」など就業者がコントロールできない要求や、「誠意を見せろ」など何をしてほしいのかが分からない要求も、程度によってはカスハラといえます。
なお、これらの行為類型は、あくまで例示であり限定列挙ではありません。また、就業者の業務内容により顧客等との接し方は異なるため、個別の状況により判断が異なる場合もあります。
顧客等への配慮
本来、意見や苦情自体は事業者の業務改善や新たな商品開発、サービス向上につながるものであり、正当なものについては申出の機会が確保されるべきです。また、就業者が応対する顧客等の中には、障害のある人や認知症の人など合理的配慮が必要な方もいます。
このため、条例では、就業者の責務としてカスハラの防止に資する行動をとることを定めるとともに、「顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意する」との配慮規定を置いています。また、ガイドラインでも、正当な申出の初期段階から顧客等の心情に配慮した適切な言動を行うことが重要としています。
一方で、顧客ならば何をしても許されるという訳ではありません。正当なクレームを事業者に伝え消費者の権利を実現するためには、カスハラにならないよう、適切な方法で伝えることが大切です。
消費者としての意見や苦情をきちんと伝えるためのポイント
消費者庁の啓発冊子では、上手な意見の伝え方を紹介しています。まずは「ひと呼吸、おくこと」です。感情的な言動にならないよう、まずはひと呼吸おいて冷静に。気持ちを落ち着けましょう。次に、「具体的に伝えること」も大切です。何を、どのようにしてほしいのか、またその理由について、相手に分かるように具体的に伝えましょう。この時に、暴力や暴言は決して行ってはいけません。意見を伝えたら、「相手の話を最後まで聞き」ましょう。一方的に話をせず、相手の言い分や理由を最後までしっかり聞いて、理解するようにしましょう。その際、「相手(従業員等)の立場を理解すること」が大切です。そして、「相手への敬意を持って接すること」を心がけましょう。行き過ぎた言動は相手を傷つけてしまいます。お互いに敬意を持ち、相手を思いやって、尊重し合うことが大切です。
意図せず無意識に行った行為でも、それが顧客等から就業者に対する著しい迷惑行為であり、就業環境を害するものであった場合は、カスハラに該当する可能性があります。意見を伝える場合には、前述の上手な意見の伝え方も参考にし、カスハラにならないように気を付けましょう。
上手な意見の伝え方チェックリスト
- 意見を伝えるときには、ひと呼吸おこう
- 意見は具体的に伝えよう
- 相手の話を最後まで聞こう
- 相手(従業員等)の立場を理解しよう
- 相手への敬意を持って接しよう
最後に
働く人と顧客等は対等な立場であること、誰もがカスハラを受ける側にも行う側にもなり得ること、互いの立場を尊重し合うことが大切です。働く人と顧客等が互いへの思いやりを持ち、カスハラのない、よりよい社会をつくる一員として行動することを心がけましょう。
※TOKYOノーカスハラ支援ナビ」では、カスハラに関するさまざまな情報を発信しています。
https://www.nocushara.metro.tokyo.lg.jp/

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