ここから本文です

今月の話題

消費者にとっての
物流2024年問題

東京大学先端科学技術研究センター
先端物流科学寄付研究部門
特任研究員 井村( いむら ) 直人( なおと )

皆さんもテレビやネットなどで「物流2024年問題」という言葉を聞いたり目にしたりしたことがあるのではないでしょうか。

物流というのだから何かトラックの問題だろう」程度に思っている人も少なくないかと思います。しかし、この問題は私たち消費者の生活にいろいろな影響を与えることになるかもしれません。

物流2024年問題」とは何か、私たち消費者にどのような影響がありそうなのか、問題の解決に向けて私たちができることは何なのかを考えてみましょう。

物流2024年問題」とは?

物流2024年問題」とは、働き方改革関連法によって、2024年4月からトラックドライバーの残業(時間外労働)時間が、罰則付きで年間960時間に制限され、これまで運べていたはずの荷物が運べなくなるといわれている問題です。

残業時間が制限されるのであれば、その分ドライバーを増やせばいいと思うかもしれませんが、人口の減少が始まっている日本ではあらゆる業種で人手不足が深刻で、新たにドライバーを雇うことは難しいのです。トラックドライバーは、高齢化が進み、労働時間が長い割には給与が低く、必ずしも魅力的な職種ではありません。

また、インターネットなどを通じて物を買うことが増え、宅配便の配達個数が多くなると同時に、届け先の留守による再配達も増えて、さらに人手がかかるようになっています。

こういった状況の中でトラックドライバーの残業時間の上限を規制することになると、ますます人手不足となり、運べない荷物が発生するのではないかといわれているわけです。国の発表(※)では、具体的な対策を行わなかった場合、2024年には日本全体の荷物の約14%、2030年には約34%が運べなくなると試算されています。

※物流革新緊急パッケージ(令和5年10月6日 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議決定)より

消費者の暮らしに及ぼす影響

トラックドライバーの残業時間の上限が規制され実働時間が短くなることが、私たちの生活にどう影響するのでしょうか。まず物流は大きく分けて、皆さんの自宅やオフィスなどに荷物を届ける「ラスト・マイル」と呼ばれる配送と、企業の工場や倉庫などの間を結ぶ幹線輸送に分けられます。

前者の配送では、ドライバーの残業時間の規制のため、これまで1日で終わっていた配達が終わらず翌日に持ち越されたり、翌日配送や時間指定ができなくなったりするかもしれません。

後者の幹線輸送は、多くの場合が長距離の輸送となり、運転時間や休憩時間などを含めた拘束時間が長いため、残業時間の規制はより大きな問題になる可能性があります。例えば、適切な休憩時間を確保することにより荷物の到着が遅れる可能性があります。また、これまで日帰りで運送できていたところでも、行き先で宿泊しなければならなくなり、その結果翌日のトラックが不足し、運べない荷物が発生するというようなことが起こる可能性もあります。そして、これらがスーパーマーケットなどの店舗への配送にまで広がり、これまでは注文した翌日に店舗に届いていた商品が届かず、店舗の棚にいつもの商品がない、といったことが増えるかもしれません。

そこで、このような問題を避けるために、この後述べるようなさまざまな対策が行われようとしています。しかし、同時にそういった対策に必要な費用は運送や保管のコストに反映され、それはさらに商品の価格や送料に上乗せされるかたちで消費者の負担が増えることにもつながります。

問題解決のための取り組み

国は物流2024年問題への対策として、①物流の効率化、②荷主・消費者の行動変容、③商慣行の見直しの三つを掲げ、法整備などを行うとしています。物流業界では、物流の効率化のためのさまざまな取り組みがスタートしています。

私たちの身近なラスト・マイル配送については、ドライバーや配達営業所の配置を工夫して効率的な配送を目指したり、再配達を減らすための「置き配」を進めたり、配達日を遅らせることでポイントを発行したりといった対策によって、ドライバーの労働時間短縮を目指しています。

そして、一番影響の大きい長距離輸送については、次のような取り組みが進められています。①トラックの積載率向上のため、異なる企業の荷物をまとめて運ぶ共同配送、②ドライバー一人当たりの運転時間の短縮のため、長距離輸送の途中に荷物を積み替える中継地点の設置、③1台のトラックがトレーラーを牽引して、トラック2台分の荷物を1人のドライバーで運ぶ「ダブル連結トラック」の導入、④ドライバー(運転士)の人数が少なくて済む鉄道や船による輸送への切り替え(モーダルシフト)。また、倉庫に到着したトラックが積み卸しの順番を待つ時間を減らすために、あらかじめ倉庫に入る時間を予約するシステムの導入や、積み卸しの時間を短縮するための倉庫作業(荷役)の機械化や標準化も進められています。

そのほか、これまで日本では長い間、スーパーや卸からの受注に対して翌日配送することが慣習となっていましたが、これを翌々日配送に変えることで荷物をまとめ、トラックの台数を減らして効率を向上させるという取り組みも始まっています。

私たち消費者ができることは

私たち消費者は、通販番組の「送料無料」という言葉に象徴されるように、送料は実際にはメーカーや売主が負担しているにもかかわらず、物流に関する費用はタダ、商品が届くことが当たり前、と思っていたかもしれません。しかし、物流2024年問題がニュースなどで取り上げられることが増えるにつれ、私たちが手に取る商品には必ず物流が関わり、そこにはコストが発生していることを次第に意識するようになってきたのではないでしょうか。

これからは、消費者の物流に対する意識や行動の変化が求められます。目の前の商品だけではなく、サプライチェーン(商品が生産され消費者の手元に届くまでの一連の流れ)全体への想像力を働かせ、ちょっとした心がけを積み重ねていくことが大切です。

例えば、①インターネットで物を買うときに、初期設定が「翌日配送」でも確実に受け取れる配達日時を指定し、その時間は必ず在宅するか、宅配ボックスや置き配、コンビニでの受け取りなどを利用すること、②もし予定が変わったときには運送会社などに連絡すること、③複数の商品はまとめて注文・配達依頼をすることなどです。

さらに、④いつも買っていた商品がスーパーの棚になければ、いったん他のメーカーの商品を試してみる、⑤食品を買うときは、棚の手前にある賞味期限の近い商品から買ったり、地産地消を心がけたり、廃棄ロスの削減や物流負荷の軽減に協力する、⑥最近増えている大雨や大雪といった災害に備え、自宅でも在庫を持つ、⑦災害時には必要最小限の注文や購買にとどめるなど心がけてみましょう。

このような消費者の意識の変化が、国の掲げる2024年問題への対策の一つである「荷主・消費者の行動変容」につながっていきます。

2024年問題から持続可能な社会の実現へ

物流2024年問題は、トラックドライバーの残業時間が制限されるという単純な問題ではありません。

これを機会に、私たち消費者の一人一人が、商品が生産され(そのための原料が調達・生産・配送され)、サプライチェーンを経て消費者の手元に届くまでの長い道のりと、そこに関わる物流の存在を意識して、持続可能な社会に貢献できる選択肢を選ぶよう心がけたいものです。こういった消費者の意識と行動の変化が、2024年問題に象徴される物流の危機を救うと同時に、持続可能な社会の実現につながっていくのです。