
静寂な禅宗寺院に建つ都指定文化財
八王子市山田町に建つ広園寺(こうおんじ)。掃き清められた境内は森閑として、凛とした空気に包まれている。当寺は臨済宗南禅寺派の寺院で、縁起では康応元(1389)年の創建とされる。開基は、鎌倉幕府の政所初代別当の大江広元の後裔である大江師親と伝わり、山門や仏殿の屋根には大江家の家紋「一文字に三つ星」が記されている。この家紋を見て、戦国大名、長州藩主の毛利氏を思い出す人もいるだろうが、これは毛利氏がもともと大江氏の出であることによる。
当寺は豊臣秀吉の小田原征伐に際して兵火に遭い、境内建物が焼失したものの、すぐ後の慶長年間に豊臣家重臣・浅野幸長の寄付により再興。寛政4年(1792)には放火により再び境内建物が焼失してしまうが、文化~天保年間(1804~44)に建て直された。ちょうどその頃に編纂された武蔵国の地誌『新編武蔵風土記稿』には、境内1万坪、寺領53万坪、塔頭40余か寺と末寺100か寺を擁していたと伝えられているように、当地を代表する寺院であった。
文化~天保年間に建て直されたという総門・山門・仏殿・鐘楼(附・銅鐘)はいずれも東京都指定有形文化財になっている。また、境内は丘陵を背にして南に面し、仏殿・山門・総門が北から南へ一直線上に並び、仏殿東前に鐘楼があり、石垣で一段高くなった本堂・庫裏・開山堂が東西に接続している。これは禅宗寺院様式の伝統的な伽藍配置であり、現代では貴重な景観といえる。
境内の散策は自由だが、本堂などには立入制限がある。禅宗の修行道場であることを踏まえ、静寂を楽しむような心意気で訪れたい。
- 所在地
- 八王子市山田町1577
- 建設年
- 伝・康応2(1390)年開山、文化8(1811)年頃再建
- 設計
- 不明
- 最寄駅
- 京王高尾線「山田」駅