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更新日:2020年1月7日

ちょっと考えて、ぐっといい未来 エシカル消費

エシカル消費 特集コラム

 教育現場での「エシカル消費」の広げ方

(執筆者:公益財団法人消費者教育支援センター 専務理事・首席主任研究員 柿野成美氏) 

 

学校教育が大きく変わる!

 2020年から学校での学びが大きく変わろうとしています。約10年に1度改訂される学習指導要領が、小学校から完全実施されるのです(中学校は2021年、高等学校は2022年から学年進行で実施)。

 今回の学習指導要領の改訂では、教育課程全体を通じて「持続可能な社会の創り手」を育むことが求められています。予測困難な時代のなかで、課題をとらえ、その解決のために、様々な情報をもとに解決策を考え、他者と協働して持続可能な社会の形成に向けて行動できる人を育むことが必要とされているのです。

 

SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて

 では、なぜこのような大きな変化が起きたのでしょうか。それは、地球が持続「不可能」な状況に立たされていることに他なりません。日本のように、海外から食料の6割を輸入しているにも関わらず、食品ロスを大量に出す国がある一方で、飢餓に苦しみ、十分な栄養が得られない人が大半を占める国もあるのです。また、私たちが便利だという理由で、プラスチック製品を大量に使用し続けたことで、そのゴミが海に流れ、マイクロプラスチックの問題として、海洋生物や人体にも影響を及ぼす事態になっています。

 このような問題を解決するために、2015年に世界各国が持続可能な開発目標(SDGs)を採択し、2030年に向けた取り組みが始まっています。

 

一度立ち止まって、自分のライフスタイルを見直すことが必要

 普段の買い物をイメージしてみましょう。私たちは、誰かの犠牲によって作られたものを買いたいと思いません。しかし、店舗で手にとる商品は、どこで、誰が、どのように作っているのか、情報が不十分な場合がほとんどです。

 

 ひょっとしたら、あなたのお気に入りの商品が、学校に行けず働かされている子供が作ったものだったら?

 あなたの選択が、知らない所で地球に負の影響を与え、地球全体を持続不可能な状況に追いやってしまっているとしたら?

 

 商品の生産過程を考えたり、本当に買う必要があるかどうかよく検討するなど、一度立ち止まって、自分のライフスタイルを見直すことが必要です。すなわち人や社会、環境に配慮した消費行動である「エシカル消費」を実践することが、SDGs達成のためには不可欠なのです。

 

学校でのエシカル消費の優位性

 では、学校ではどのようにエシカル消費を扱っているでしょうか。一般的には、「エシカル消費」という言葉は、学校現場に十分に浸透しているとは言いがたい状況です。しかし、「エシカル消費」に関連する授業や活動を、様々な場面で見つけることができます。

 例えば、小学校3年生の国語で、「気になる記号」という単元があり、身近なマークを調べ、それをもとに説明文について学習します。下の写真は、都内の公立小学校に通う児童がスーパーに買い物に行ったとき、持続可能な漁業に付けられている「海のエコラベル」を保護者と一緒に見つけて関心を持ち、宿題としてマークの特徴や内容を説明することに活用した例です。

 消費者教育に関連する教科は幅広く、社会科や家庭科、道徳が中心となりますが、国語、算数、理科、英語など、どの教科でもエシカル消費を扱うことが可能です。なぜなら、持続可能な社会を消費生活から考えることは、子供にとって身近であり、誰もが当事者になりうるため、「主体性」を引き出しやすく、学習者・授業者双方にとって魅力的な授業展開を可能にするのです。

 

小学校3年生の調べ学習で取り上げられた海のエコラベル

小学校3年生の調べ学習で取り上げられた「海のエコラベル」

  

 

スウェーデン家庭科「持続可能なピザを考える」

 少しだけ海外の事例を紹介しましょう。

 2016年、ストックホルム市街から近いリディンゲ島にある公立小学校に訪問し、家庭科の授業を見学しました。

 教科名は家庭を意味する「HEM」で、その頭文字はH=健康、E=経済、M=環境(サステナビリティ)という意味が込められています。教員は、食を通じて、健康、経済、環境を考えた消費者になることを目的に家庭科の授業を組み立てていると話していました。教科書には、ノルディックスワン等の環境ラベルや、FSC、GOTS、国際フェアトレード認証ラベル等も掲載されていました。スウェーデンでは、これらの認証ラベルが付けられた商品が多く、子供達も容易に見つけられる環境にある点が日本と異なると言えるでしょう。

 この学校では、持続可能な発展に取り組むパイロット校になっていることもあり、家庭科の授業が重要視されているという話でした。特に、授業では、自分の消費生活とアジア、アフリカの生活がどのようにつながっているのかグループごとに調べ学習をしていました。生徒は海外の生活をステレオタイプに考える傾向にあるので、その国の文化を調べさせ、他教科の学習内容を総合化してプレゼンテーションをしていました。そこでは中国やインドの人権問題や、アフリカの紛争鉱物、南アフリカの森林問題などのテーマが生徒から出てくるので、最後には、未来のための料理として「持続可能なピザ」をつくることをテストにしたそうです。

スウェーデンの小学校家庭科室での授業の様子

スウェーデンの小学校家庭科室での授業の様子

 

 

学校でのエシカル消費の学習をさらに進めるために、教員の理解が不可欠

 新学習指導要領で消費者教育は重要事項として位置付けられ、自立した消費者を育むため、小学校では買い物の仕組みと消費者の役割などを、中学校では売買契約の仕組みや消費者の基本的な権利と責任などについて学習します。また高等学校では、新設の「公共」や家庭科で「C持続可能な消費生活・環境」において、より具体的に学習します。

 学校でさらにエシカル消費の学習を進めていくためには、第一に「持続可能な社会に向けたSDGs達成のために、エシカル消費が重要である」という教員に対する理解を深めていくことが喫緊の課題です。消費者の行動によって持続可能な社会を創るという強烈なメッセージをすべての教員に理解していただくことが、子供たちのエシカル消費の学びを進めるために欠かせません。教員自身が、日々のニュースなどからエシカル消費を職員室の話題にし、未来の主人公と対話する切り口を探すことが重要です。

 また、このことを分かりやすく伝える教材「SDGs達成のための“未来を変えるエシカル消費”外部サイトへリンク」も作成しました。ぜひご活用いただければ幸いです。

SDGs達成のための未来を変えるエシカル消費外部サイトへリンク

 

 

発達段階に応じて、社会に向かう力をつける

 第二に、子供の発達段階に合わせて、具体的なテーマ設定をすることが必要です。例えば小学校では4年生でゴミの学習をし、処分場等の見学をします。この時、食品ロスや海洋プラスチックの話題などは、関心の深い話題になりえるでしょう。ただし、この学習では小学生に「エシカル消費」という言葉は難しいかもしれませんが、あくまで、具体例を積み上げながら、「消費者の役割」について考えることが重要だと思います。

 一方、中学生、高校生になると、具体例の積み重ねから「エシカル消費」の概念理解も深まってきます。より興味のあるテーマを探求したり、課題解決に向けた行動につなげたりできる年齢になってきます。例えば、今年度初めて、徳島県教育委員会、徳島県、消費者庁では、全国の高校生を対象として、「エシカル甲子園」を開催し、エシカル消費をテーマに活動した内容を競い合います。予選を勝ち抜いた全国の高校生が、2019年12月には本大会を迎えます。予選を通過したテーマはどれも、高校生らしいアイディアが詰まったものです。

 このように、学校教育を通じて育む資質・能力の一つである「社会に向かう力・人間性」は、「エシカル消費」という社会課題と行動が密接に結びついた取り組みによって、具体的かつ効果的に育むことができると言っても過言ではないでしょう。この実現のためには、学校関係者だけではなく、保護者や地域が一丸となって取り組むことが必要です。

 まさに今、そのスタートラインに立った時期です。パートナーシップで持続可能な社会を創る消費者の役割、エシカル消費を広めていきましょう。

 

 

【プロフィール】

 

柿野成美氏プロフィール写真

柿野成美氏

  

公益財団法人消費者教育支援センター専務理事・首席主任研究員 博士(政策学)

消費者庁「倫理的消費」調査研究会委員、文部科学省消費者教育推進委員会委員

東京都消費生活対策審議会委員

平成28年告示の小学校学習指導要領(家庭科)の改定や、中学・高等学校の教科書の執筆、消費者庁等の教材作成に多数関与。子ども達の消費者としての自立を目指して、全国各地における消費者教育の実践支援を行っている。

 

お問い合わせ先

東京都生活文化スポーツ局消費生活部企画調整課企画調整担当

電話番号:03-5388-3053