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今月の話題

明るい終活でこれからを前向きに生きる

シニア生活文化研究所
所長
小谷 みどりこたに みどり

 いつかおとずれる人生最後のその日まで、自分らしい選択をしていくために、そして残される大切な人たちのために、どんな事を整理し、どうやって伝えていけばよいのでしょうか。
 これからを、安心して前向きに生きるためにも、元気なうちから考えてみませんか。

いざというときのこと、考えていますか?

 「終活」とは、人生の終焉をよりよく迎えるため、事前に準備することです。
 この先、程度の差こそあれ、多くの人は、老い、死を迎える、というライフステージをたどります。その中で、病気になったり、自立できなくなったりしたとき、自分の考えや思いを周りの人に伝えて、話し合うことができればいいのですが、そうできない場合もあります。
 例えば、自分が最後にどこでどんな医療を受けたいか、どんなお葬式やお墓を望むのかは、あらかじめ意思を誰かに伝えておくしかありません。終末期医療の意思はその時になって自分で伝えることは状況的に難しいことが多いですし、お葬式やお墓は自分の死後のことだからです。
 最近では、「家族に迷惑をかけたくない」などの理由で、自分のお葬式やお墓について元気なうちに考えておこうという人も増えてきています。事前に整理をしておくことは、残された人に迷惑がかからないようになるだけでなく、余生を安心してより前向きに生きていくきっかけにもつながります。
 「終活」で、自分のこれからについて、考えや伝えたいことなどを整理してみませんか。

意思を残す

 いざというときのために、何をどうしてほしいのか、自分の意思をあらかじめ書いておくことをお勧めします。
 それには、エンディングノートと遺言書の2種類を利用します。エンディングノートと遺言書では、それぞれどんなことを書くべきなのか、役割が異なります。

(1)エンディングノート

 エンディングノートは、自分の人生の締めくくり方について考え、思いや希望を、ご家族など周囲の方に伝えるためのノートです。
 介護が必要になったり、病気で寝込んだりしたときに、どこでどんな介護や看護を受けたいか、どんな終末期医療を受けたいか、あるいは亡くなった後にどんなお葬式をしてほしいか、遺品をどう処分してほしいのか、亡くなったことをどこの誰に知らせてほしいか、といったことについては、エンディングノートを利用して、自分の考えをまとめておきましょう。
 他にも、かかりつけ医、菩提寺、親族や親友の連絡先、お墓のありかなども書いておくとよいでしょう。離れて暮らす子供たちや親族など、残された人たちが、連絡をするときなどに、とても助かります。
 エンディングノートの書式や形式には決まりはありませんが、家族や親族にエンディングノートの存在を知らせておく必要があります。そのため、パソコンで作成したものはプリントアウトしておいたり、市販のエンディングノートなどに自筆で記入しておいたりするなど、分かりやすい形で残しておくことをお勧めします。

(2)遺言書

 一方、遺言書は、自分の死によって法的な効力が発生する生前の意思表示のことです。
 何を書いても自由ですが、法的に効力があるのは、決まった書式で書かれた、子の認知や相続人の廃除など身分に関することと、相続財産に関することだけです。
 遺言書を残すメリットは、相続手続きが簡素化できることです。
 遺言書がない場合には、相続財産は法定相続人の共有となり、相続人の協議によって遺産分割の方法を決定し、相続人全員が実印を押した「遺産分割協議書」を作成することが必要になります。「遺産分割協議書」がないと、不動産の名義を特定の相続人の名義に変更したり、故人の預貯金を解約したりすることなどができません。なお、相続人同士の協議で決まらなかった場合には、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることになります。
 「財産がたくさんある人が遺言書を作成する」と思っている人は多いのですが、こうした手続きの負担軽減のためにも遺言書が必要なのです。
 とはいえ、これまでは、自筆証書遺言※1はすべて自筆で作成しなければならないうえ、書き方の不備があれば無効となる、改ざんや紛失の恐れがある、死後に家庭裁判所で検認※2してもらわなければ無効となるなど、さまざまなハードルがありました。
 しかし、令和元年と令和2年に、自筆証書遺言について法律改正がありました。令和元年1月13日以降に作成される自筆証書遺言には、パソコンで作成した財産目録や預貯金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書を添付できるようになりました。このことにより、書き方の不備で無効となる恐れが減りました。
 また令和2年7月10日からは、自筆証書遺言を法務局で保管してくれるサービスも始まりました。このことにより、改ざんや紛失の恐れがなくなり、検認なしに相続手続きがすぐに開始できるようになりました。

※1 自筆証書遺言とは、遺言者本人が全文、日付、氏名を自筆で書き、押印して作成する遺言です。この他、一般的な遺言書には、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。

※2 相続人に対して、遺言の存在と内容を知らせ、検認の日時点での遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防ぐための手続きです。

エンディングノートと遺言書の違い
エンディングノート 遺言書
法的拘束力 なし あり
作成方法 書き方に制限なし 書き方に制限あり
遺産相続 できない できる
医療・介護などの希望 書ける

まとめ

 いざというとき、「家族に迷惑をかけたくない」と思っている人は多いでしょう。そのためには、介護や終末期医療、お葬式などについて自分はどうしたいのかをあらかじめ話し合ったり、整理して伝えておいたりすることが大切です。
 そして、どんなに事前準備をしても、自分で実行できない以上、自分の思いを理解してくれる人の存在は不可欠です。お互いに、思いを理解し尊重できるような関係性を、元気なうちから築いていきましょう。

お墓について

 近年は、先祖の墓じまいをしたいと考える人が増えています。
 お墓を別の墓地に引っ越す「改葬」では、移転先の墓地をあらかじめ確保し、遺骨の移転の手続きをすることが必要です。新しいお墓に遺骨を移さずに、墓石ごと撤去する場合は、すでに安置されている遺骨をどうするかを考える必要があります。
 墓じまいで起こりやすいのが、親族、寺院とのトラブルです。故人への思いや、お墓に対する考え方はそれぞれです。親族にはあらかじめ相談しておくとよいでしょう。
 お墓が寺院墓地にある場合には、離檀料として高額のお布施を請求され、トラブルになるケースもあります。お布施には明確な基準や支払い義務はありません。金額に納得がいかない場合は、基本的には寺院と話し合うことになりますが、これまで墓守をしてくれた寺院に対し、何らかの形で感謝を示すことをお勧めします。また、寺院には、墓じまいを行うことにした事情など、あらかじめ相談しておく方が、その後の手続きもスムーズに進むでしょう。