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今月の話題

楽しい旅行のために
~旅行予約のトラブル事例から学ぶ~

弁護士法人御堂筋法律事務所 東京事務所
弁護士 谷口 和寛(たにぐち かずひろ)
 夏休みに向けて、旅行予約のシーズンが始まります。最近では、消費者ニーズの多様化により、旅行手配の方法もネット予約を始めとして、さまざまになっています。
 しかしネットでの旅行予約は、自宅にいながら、簡単に予約できる反面、トラブルも多くなっています。
 ネット・電話をはじめとした旅行の予約で起きているトラブル事例を取り上げながら、予約をする際、気を付けるポイントなどをお伝えします。

旅行予約のトラブル事例

 2017年3月、株式会社てるみくらぶ(観光庁長官登録)が営業を停止し、東京地方裁判所に破産手続開始の申立てを行いました。ツアーに申し込んでいた旅行者の多くは、楽しみにしていたツアーに参加できないばかりか、前払いしたツアー代金のほとんどが返金されないという事態が起きました。
 同社によれば、被害を受けた旅行者の数は約9600名に及び、被害額は100億円を超えるとのことで、旅行業者の倒産事件としては史上最大規模のものになりました。
 少し過去にさかのぼりますと、2014年7月には、航空券の手配を主な業務としていた株式会社レックスロード(元東京都知事登録)の経営破綻による消費者被害が発生しています。
 同社は、資産不足により登録の更新ができず登録を失ったものの、その後も無登録であることを隠して違法に営業を継続しましたが、最終的には経営破綻に陥り、500名を超える消費者が被害を受けました。
 近年、海外のオンライン旅行取引事業者〔海外OTA(Online Travel Agent)〕の台頭や、航空会社・ホテルの公式ホームページでの座席、客室等の販売システムの普及により、国内の旅行業者の経営環境は厳しくなっており、毎年、一定数の旅行業者が倒産、休廃業等に至っています。実績のある有名な事業者でも倒産をする可能性はゼロではありません。申込先の旅行業者が旅行前に倒産等起きてしまうことは、必ずしも他人事ではないのです。

被害が拡大した理由

 てるみくらぶは、営業停止の間際まで、「現金一括入金キャンペーン!」と題して、ツアー代金を現金一括で入金した場合に割引を行うキャンペーンを実施し、ツアー募集と入金要請を続けていました。
 このキャンペーンでは、現金払い(銀行振込を含む。)のみが対象とされ、クレジットカード決済は対象外とされていました。クレジットカード決済の場合は、決済後、カード会社から入金があるまでタイムラグがありますが、同社は、直ちに手元資金を得ようとして、キャンペーンの対象を現金払いに限定し、クレジットカード決済を除外していたのだと思われます。このようなキャンペーンを打つこと自体、今から考えれば、社内の手元資金が不足しており、資金繰りが悪化していたことの端的な表れだったと言えます。
 そして、キャンペーンにより前払いしていたツアー代金の大部分は、航空会社・ホテル等への支払いには回されず、借入金の支払いに回されていました。その結果、会社の営業停止により、約9600名もの方が、ツアー代金をすでに支払っていたにもかかわらず、旅行に行くことができなくなったのです。
 この事件は、魅力的に映るキャンペーンを活用しつつ、ツアー代金の前払いという旅行取引における一般的な慣行を悪用し、旅行者の被害を拡大させたものと言えます。
 経営破綻の裏側にこのような不適切な経営があったことを受け、観光庁は、経営ガバナンスワーキンググループを開催し、表1〔観光庁による主な対策〕記載の再発防止策を講じることとしました(②、④については2018年4月に実施)。そして、このうち③については、すでに、業界団体のガイドラインにおいて 表2〔〔前払金ルール(抜粋)〕記載のルールが策定されています。

表1 観光庁による主な対策

  1. 海外ツアーを取り扱う旅行業者を対象とする年1回の経営状況の把握
  2. 旅行業者の経営状況に関する通報窓口の設置
  3. 前払いツアー代金に関する業界の自主ルールの策定(申込金使途のパンフレット等への明記)
  4. 弁済業務保証金制度の見直し

表2 前払金ルール(抜粋)

原則
  1. 予約時の申込金は、旅行代金の20%以内。
  2. 残代金は、旅行開始日の60日前の日以降でないと収受できない。
例外
次のいずれかの場合、旅行開始日の60日前の日より前の日でも、旅行代金の20%を超える金額を受け取ることができる。
  1. パンフレット等に申込金使途(例:ホテル代金の支払いのため等)が記載されている場合。
  2. 旅行者に上記の「原則」に定める支払方法を示した上で、旅行者の意思により、旅行代金の20%を超える金額が支払われる場合。

旅行予約をする際の注意点

 今回の事件を踏まえ、今後、旅行の申し込みをする際は、申込先の旅行業者の旅行業登録の有無や、旅行条件について調べることはもちろんですが、次のような旅行代金の支払条件・割引条件に関する点にも注意するようにしてください。そして、もし、不審な点があれば、ご家族で相談したり、その業者の利用を避けるのがよいと思います。

  1. 旅行開始日が2ヵ月以上先なのに、旅行業者から提示された申込金の金額が旅行代金の20%を超えていないか。
  2. ①の申込金が旅行代金の20%を超えている場合で、パンフレット等に申込金の資金使途の記載があるか。資金使途の記載がある場合、資金使途が不自然ではないか。
  3. 割引キャンペーンの利用条件が、旅行開始日まで2ヵ月以上間があるのに、直ちに旅行代金の20%を超える金額の支払いを求めるものになっていないか。また、支払方法が現金払いに限定されていないか。

オンライン旅行取引(ネット予約)で注意すべき事項

 近年、オンライン(ネット)での旅行取引が増えていますが、その取引形態としては、大きくは、次の3種類があります。

  1. オンライン旅行取引事業者(OTA)のWEBサイト上の操作だけで予約が完結するもの
  2. 旅行比較サイト(メタサーチ)を通じて選んだ旅行業者と個別にやり取りの上で予約に至るもの
  3. 航空会社や宿泊施設の公式サイト上で予約に至るもの

 このうち②は、旅行比較サイトのおかげで、業者間の価格の比較が簡単にできて、それ自体、非常に便利なのですが、一方で、安値を提示する旅行業者の中には、経営状況が悪化し、当座の手元資金を少しでも得るために、利益度外視で安値を提示している旅行業者が紛れている可能性もあります。実際、前述のレックスロード事件で被害を受けた旅行者の中には、旅行比較サイトを通じて同社と取引をした旅行者も多数含まれていました。「現金一括入金キャンペーン!」に共通することですが、「安い」には理由があるということを十分に意識してください。
 なお、①については、パンフレット等の書面が直接には手渡されないため、取引条件(主にキャンセル条件に関するトラブルが数多く発生しています。特に、海外OTAについては国内OTAとは取引条件が異なることがあります。OTAを利用する際には、予約前に、日本の旅行業登録の有無や取引条件を必ず確認するようにしてください(その他注意すべき事項は、観光庁の「旅行予約サイトご利用の際のチェック項目」http://www.mlit.go.jp/common/001105330.pdfを参考にするとよいでしょう。

旅行業者が倒産した時は…

 万一、旅行業者が倒産して、ツアーが中止になったり、旅行代金が返金されない時は、裁判所に届け出をして倒産手続に参加するほか、旅行業法に基づく営業保証金・弁済業務保証金からの支払いを請求することが考えられます。
 旅行業者が(一社)日本旅行業協会または(一社)全国旅行業協会に加入している場合、旅行業協会に対して弁済業務保証金からの支払いを請求することになります。
 そして、旅行業者が協会に加入していない場合は、登録行政庁(観光庁または都道府県)に対して営業保証金からの支払いを求めることになりますので、各請求先に問い合わせをしてください。
 なお、無登録の業者については、そもそも営業自体が違法で許されませんし、倒産時にあてにできる営業保証金等もありませんので、予約前の旅行業者の登録番号の確認は必須といえます。登録番号は、法律により、旅行業者の店頭やホームページに掲示されることになっていますし、観光庁または都道府県に問い合わせをして確認することもできます。
 以上の点に気を付けることで、旅行の予約トラブルをできるだけ未然に防ぎ、楽しく快適な旅行となるよう、心がけましょう。