メニュー

ここから本文です

今月の話題

ローリングストックで普段から防災対策
~日常備蓄のすすめ~

日本災害食学会
理事・事務局長
守 真弓(もり まゆみ)
災害時にとても大切な食事について考えます。ローリングストックは「主婦の知恵」の延長。ポイントをおさえておきましょう。

ローリングストックとは

 ローリングストックは、英語ではなく日本語です。意味はそのまま、「ローリング(回す)」と「ストック(ためる)」。日頃食べているものを多めに買っておき、食べたらその分を買い足していく方法のことです。
 食料や調味料を余分に買ってストックすることがあると思います。そして、使う時は賞味期限が切れそうなものから使うものですね。
 この「買い足しながら使う」方法は、防災の世界では、意外に新しい考え方なのです。
 最近までは、3日間ぐらいをしのぐための水と非常食を持っていればいいという考え方が中心でした。今は、3日分から1週間分の食事ができるように備蓄する必要があると考えられています。

きっかけは阪神淡路大震災

 日本では、経済大国になってから初めて、阪神淡路大震災が起きました。昔とは桁違いに人口の多い都市での災害です。避難所や仮設住宅、孤独死など、いろいろな問題が起きました。それからは、大きな災害が何度も起きました。被災地では、不十分な偏った食事が長く続くことから、いろいろな食の問題が起きることがわかってきました。

避難所へ行けば大丈夫?

 災害をあまり心配していない人に聞くと、被災したら避難所へ行けば、どこからか助けが来て、支援物資や食料を十分にもらえる、そんなふうに思っているようです。それは、ハッキリ言って「テレビの見すぎ」です。ニュース番組で、人が列を作って炊き出しの食事をもらっている映像。視聴者にとって強く印象に残る風景ですが、実際にはいろいろな状況があり、ほんの一部しか報道されていないのです。
 被災地で食べ物が余っているという人もいます。一方で食べ物がなくて困っていると訴える人もいます。被災地では被害の差や、物資の差がとても大きくなることがあるのです。
 被災地では避難所に行かない人も多いです。たとえ自宅が無事で避難所へ行かずに生活できたとしても、被災地にいる限り不自由な生活は続きます。自分で水や食料などの物資を備えておかないと大変なことになります。

長期保存だけではダメ!

 それでは備蓄食料は何を備えればいいのでしょう。防災コーナーに売っているような「何年も保存できる食料」を押し入れの奥にためておけばいい、賞味期限が来たら捨てて買い替えればいい、という古い考え方では、とても無理だということがわかってきました。家族に、赤ちゃんや小さい子供がいたら? アレルギーを持っていたら? 固いものを噛めないお年寄りがいたら? 持病があって食事制限があったら?「災害への備え」では、災害が起きたら自分の地域は、自宅は、家族はどうしたらいいのか、いろいろな可能性を検討して、家族や自分に合ったストックを考えなければいけません。
 ローリングストックの「買い足しながら使っていく」方法にすると、賞味期限が長い特殊な食品だけでなく、普段食べ慣れている食品をいざという時の食事に利用することもできます。
 このようにストックすれば、いつでも「ある程度の量の食品を持っている」ことになり、安心です。

面倒で、やってられない!

 ローリングストックは「主婦の知恵」の延長ですから、一般家庭では取り組みやすい、と言われています。でも、本当でしょうか?
 例えば1つの食品を古いものが手前に来るように並べておいて、新しいものをいちばん奥にしまって、手前から取り出して…という説明があります。やってみると、いちばん奥にしまうだけでも大変。
 では、横に並べてみたらどうでしょう。スペースがさらに足りなくなり、しかも面倒なのは変わりません。
 理想的に見えるローリングストックですが、3日分から1週間分の食事ができるように備蓄するとなると、とても手間がかかって大変なのです。しかも、よほど気を付けていないとあっという間に賞味期限切れになってしまいます。

コンビニが冷蔵庫?

 忙しい人にとっては、ローリングストックは面倒で、とてもやっていられないのです。最近はコンビニが冷蔵庫代わりの人も多く、災害時もコンビニへ行けばいいと思っている人までいます。それは「コマーシャルの見すぎ」です。コンビニには在庫が大量にありません。POSといって、単品ごとに販売情報を管理して補充するシステムを採用しています。度々トラックが来て荷物を運んでくる方式です。トラックが運んでくる、その食品の工場が被災したり、道路が破壊されて交通網が混乱すると、コンビニには補充できなくなるのです。

市場はストップする

 首都圏には、大量の食料が毎日市場に入ってきます。近隣県だけではなく、北海道や九州のような遠方からの食品も、スーパーマーケットに並んでいます。
 もしも大災害が起きると、この市場もストップしてしまうでしょう。食料は入ってこなくなります。物価高になることも考えられます。
 こうした事態に備えて、普段でも使えて、災害時にも使える食品をストックしておくべきでしょう。いざという時にも水や食べ物がある、と思っただけでも、安心して心強いものです。
 では、面倒くささを乗り越えてストックするには、どうしたらいいのでしょうか?

ざっくり大まかにストック

 私が自宅でストックしている方法をご紹介しますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
 私は、まず不要な食器をガレージセールで処分しました。ずいぶんといらないものをため込んでいました。小まめにのぞける場所に、大きなスペースを3つ作りました。
 1つ目のスペースには「今年中に食べないと賞味期限が切れるもの」を入れています。
 2つ目には「来年まで保存できるもの」を入れています。
 3つ目には「再来年以降まで保存できるもの」を入れています。
 1つ目の「今年中」のスペースだけを、小まめにのぞきこんで、料理の材料にしたり、そのまま食べたりして使います。
 このスペースは、次の年には「最新の食料(再来年以降まで保存できるもの)」が入るスペースになります。そして2つ目の「来年まで」のスペースが今度は「今年中」のスペースになるのです。

何をためるの?

 いちばん大事なものは水です。2リットル、1リットル、500ミリリットル以下の小型容器など、いろいろなサイズのペットボトルにしておくと普段でも使いやすいです。食品は多少日持ちのするもの、美味しいと思うもの、自分の好きな食べ物をダブル買いなどして余分に買いましょう。

いつもの食卓に近づけて

 普段と同じとはいきませんが、いつもの食事と同じように、できるだけバランスよく組み合わせられるように。主食(ごはん、めん類、パンなど)、副菜(野菜、きのこ、海藻など)、主菜(肉、魚、卵、大豆)、牛乳・乳製品、さらに、お茶やジュース、お菓子、シリアル製品など。
 缶詰、びん詰め、レトルト製品、フリーズドライ食品、乾物、非常食製品で集めていきましょう。
 集めるだけではなくて、食べたり、毎日のお料理で材料として使いましょう。

「常温(室温)」で保存

 冷蔵ではなく「常温(室温)」で保存できるものを選んでください。冷凍食品は、電気が止まったら次第に溶けてしまいます。
 東京都防災ホームページ「都民の備蓄推進プロジェクト」にも参考になる食品が紹介されています。
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/1001855/

調理器、道具

 混乱期が過ぎて、家の中がある程度片付いてきたら、カセットコンロがあれば簡単な料理は作れます。
 電気が回復すれば、IH調理器や電子レンジが活躍します。なにより冷蔵庫が使えるようになるのです。
 カセットコンロのガスボンベ、手が洗えない場合に備えて除菌スプレーや除菌ティッシュ、食品包装用ラップや家庭用アルミホイル、クッキングシート、ポリ袋も切らさないように備蓄しましょう。クッキングシートをフライパンに敷いて料理をする方法もあります。
 「高密度ポリエチレン袋」(半透明のポリ袋)※を使った料理もとても便利です。材料をポリ袋に入れ、空気を抜いて、鍋に湯を沸かして袋を入れて湯せんして料理します。電気ポットや炊飯器も利用できる、優れた方法です。
※注意 食品用で「高密度ポリエチレン使用」と表示のあるものか、「熱湯解凍可能」と表示のあるものを使いましょう。

食事のほかにも、忘れないで!

 歯磨き用品、薬、栄養補給になるサプリメントなど。
 簡易トイレも備えましょう。
 ペットの食事も忘れずに。