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今月の話題

筋力づくり、
始めませんか?
~健康寿命を延ばすために~

筑波大学大学院 人間総合科学研究科
准教授 山田 実(やまだ みのる)
 健康寿命延伸の鍵として“フレイル”が注目されています。加齢に伴う足腰の衰え、活力の低下などがフレイルの主な兆候で、要介護への進展が危惧されています。しかし、早めの“気付き”と適切な“対策”によって改善させることが可能です。
 適度な運動と適切な食事、それに積極的な社会参加によってフレイル対策を行い、健康で、いきいきとした生活を送りましょう!

健康寿命を延ばそう

 健康寿命とは、健康上問題がなく、日常生活を過ごすことのできる期間のことです。平成28年の日本人の平均寿命は男性で約81歳、女性で約87歳となっています。しかし、健康寿命は男性で約72歳、女性で約75歳となっており、平均寿命と比較するとそれぞれ9年と12年の差があります。この差を縮めることは介護を要する期間を減らすことにつながり、医療費や介護給付費といった社会保障費を抑制することになります。

健康寿命延伸の鍵はフレイル対策

 「フレイル」とは要介護に至る前段階のことを指し、近い将来、介護が必要な状態へ移行する危険性が高いと考えられています。特に、このフレイルの状態は、目立って日常生活に支障を来たしていることがないため、何の対策も取らずにそのまま過ごすことで、要介護状態を招いてしまうことが多いのです。しかし、たとえフレイルの状態であっても、然るべき対策を講じることで再び健常な状態へと改善することも可能だと期待されています。
 実際、アメリカ人高齢者を対象とした調査では、フレイルの方であっても、4年半後に状態が改善した方が約20%認められることが示されています。同様に、我々が実施した日本国内の調査でも、フレイル高齢者の約30%の方で4年後に状態改善が認められることが分かっています。これらの調査結果から、フレイルを早期に発見し(気付き)、早期に対策を取ることが健康寿命延伸の鍵になると考えられます。

簡単!フレイルチェック

 ここでは簡単にフレイルを判定する方法を紹介します。【図1】に示すように、①体重減少、②活力低下、③活動量低下、④歩行能力低下、⑤記憶力低下の5項目のうち3項目該当するとフレイルの可能性が高いと考えられます。そのような方は、このあと説明する対策方法をしっかり実践してください。それ以外の方も油断することなく、良い生活習慣を身に付け、現状を維持できるよう、以下フレイルの対策方法をご参考にしてください。

図1 フレイルチェックリスト

  1. 6ヶ月間で2-3kgの体重減少があった
  2. (ここ2週間)訳もなく疲れたような感じがする
  3. ウォーキング等の運動を週に1回以上していない
  4. 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思う
  5. 5分前のことが思い出せない

筑波大 山田実准教授 作成

フレイル対策には運動が必須

 フレイルには身体的な側面だけでなく、心理・精神的な側面、さらには社会的な側面など、種々の側面があります。対策としては運動が重要で、運動によって身体的なフレイルの改善、心理・精神的なフレイルの改善が得られることがわかっています。また近年では、ご近所の方々とサークルのような形で運動を継続することが社会的なフレイル対策にもなるのではないかと期待されています。つまり、フレイル対策には運動が必須と言えます。

フレイル対策に適した運動

 フレイル対策には、いわゆる筋力トレーニングが有用と考えられています。ただし、必ずしもスポーツ選手が行っているような高負荷な筋力トレーニングを実施する必要はなく、低負荷でもよいので多くの回数を実施することが必要とされています。
 例えば、椅子に座った状態で足踏み運動を行えば、脚の付け根の筋肉の強化になります【図2】。この運動は、2~3分間継続するようにしましょう。
 また、椅子に座った状態で脚をやや伸ばしたまま、ゆっくりと脚の付け根から上げ下げを行うことで、太もも前面の筋肉の強化につながります【図3】。この運動のポイントは、ゆっくりと実施することになりますので、5秒間かけて上げ・5秒間かけて下ろすということを意識してください。これを10回繰り返すことを3セット行うことを目標にしましょう。
 いずれの運動も重要なのは量(回数・セット数)の担保と継続です。そのように考えると、日頃からよく歩くということは、とても有用なフレイル対策になります。

図2 足踏み運動
図3 脚挙げ運動

ウォーキングでフレイル予防

 ヒトの筋肉は加齢とともに衰えるとされていますが、400個以上もある筋肉全てが同じように衰えるのではなく、加齢に敏感な筋肉があるとされています。具体的には、首・お腹・背中・お尻・太ももの筋肉です。これらの筋肉は重力に抗して姿勢を維持するために作用することから抗重力筋とも呼ばれます。そして、興味深いことに、これらの筋肉の多くは“二足歩行”を行う際、働いているのです。
 つまり、日頃から歩行を多く行うことで、これら加齢の影響を受けやすい筋肉の衰えを防ぐ可能性があります。毎日の歩数や歩行時間などをカレンダーや手帳に記入することでウォーキングが習慣化されます。現時点で運動習慣がない方は、是非、ウォーキングからフレイル予防を開始しましょう【図4】

図4 ウォーキング運動

無理せずマイペースがフレイル対策の決め手

 フレイル対策には運動が重要となることを説明しましたが、これらの運動を継続することが、何より重要になります。目標の回数などはあくまで目安になりますので、まずは無理のないマイペースな運動から始めてください。
 そして、身体を鍛える運動にはタンパク質の摂取が不可欠です。意外に思われるかもしれませんが、タンパク質の摂取は特に高齢者にとって重要です。実際、運動だけを行うのではなく、運動にタンパク質の摂取を併用することで、より筋力の強化につながることがわかっています。
 運動とともに肉、魚、大豆製品、乳製品、卵などに含まれるタンパク質の摂取にも気を配りながら健康寿命を延伸していきましょう。ただし、持病によっては、主治医よりタンパク質の摂取等を制限されている場合があります。そのような場合は、主治医とよく相談の上、日々の献立を立てるようにして下さい。
 適度な運動、適切な食事摂取といったフレイル対策を心がけながら、健康でいきいきとした明るい一年にしましょう!