梅雨の時期の風水害に備える
日本では、ほとんどの地域で水害・土砂災害が発生しています。
特に梅雨の時期は台風だけでなく長雨や梅雨前線による風水害が多発しており警戒と対策が必要です。自宅や地域の災害リスクを確認し、事前に対策をとりましょう。
令和2年7月豪雨(地上7メートルの電線に引っ掛かったガスボンベ・浸水の深さを物語る)
熊本県・球磨村/撮影:山村武彦
日本は気候リスク世界第4位
ミュンヘン再保険会社が提供する世界最大規模の災害データベースを基に、干ばつや洪水などの異常気象による被害を、死者数と経済的影響から評価・ランク付けした「世界気候リスク指標2021」をドイツのシンクタンク・ジャーマンウオッチが発表しました。1位、2位はアフリカのモザンビークとジンバブエ、3位は中南米のバハマ。そして4位が日本でした。OECD加盟の高所得80カ国のうち、ワースト10に入ったのは唯一日本だけです。
それを裏付けるように、気象庁によると、地域気象観測システム(アメダス)が統計を開始した1976年からの10年間と最近の10年間を比較すると、1時間降水量80㎜以上の発生回数が約1.7倍に増加しています。80㎜以上とは「息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感じる」雨です。
内閣府によれば、過去10年間(2009年~2018年)に97%以上の市町村で水害・土砂災害が発生しています。背景には、気候変動による豪雨のほかに、都市化の影響もあるとしています。都市化によって、排水機能が発達し、都市部に降った雨が短時間で一気に河川に流入するようになったことや、潜在的に災害の危険性のある土地が宅地へと開発されてきたことなどが挙げられ、東京でもいつどこで大規模な災害が発生しても不思議ではないのです。とくにこの時期は台風だけでなく長雨や梅雨前線による風水害が多発しており、警戒と対策が必要です。
- 全国の1時間降水量80mm以上の年間発生回数
- ※棒グラフ(緑)は各年の年間発生回数を示す(全国のアメダスによる観測値を1,300地点あたりに換算した値)。
太線(青)は5年移動平均値、直線(赤)は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向)を示す。
ハザードマップでリスク確認
風水害に備えるためには、自宅や地域でどんな災害が起こり得るのか知っておく必要があります。まずは自治体が発行する災害別(土砂災害・洪水・浸水・高潮・津波・地震など)ハザードマップ(被害予測地図)で危険度を確認しましょう。これは自治体のホームページからも閲覧できます。地域によってハザードマップの名称が異なることがありますが、一般的に洪水ハザードマップは、国が作成した「想定し得る最大規模の降雨」による洪水浸水想定区域図に、洪水予報等の伝達方法、避難場所及び避難経路などの情報を追記したもので、自治体が作成し、住民等に公表し周知を行うものです。そこには最大規模の浸水深や浸水継続時間なども記載されています。周囲の浸水継続時間が長ければ自宅が浸水せずとも、結果として孤立する可能性があります。また、河川近接地域の家屋倒壊等氾濫想定区域に指定されていたら、洪水で自宅が流される危険性がありますので、避難情報発令時には、2階への垂直避難ではなく、安全な避難場所へ早期に水平避難すべきです。
さらに、土砂災害ハザードマップで警戒区域や特別警戒区域に指定されていたら、避難指示が発令されなくても土砂災害警戒情報が発表された時点で直ちに避難を開始する必要があります。このようにハザードマップで危険度を確認し、避難先と避難を開始するタイミングや安全な避難経路も考えておくことが大切です。
強風に備える事前対策
洪水ハザードマップはありますが、強風ハザードマップはありません。それはいつどこでどんな強風が吹いてどんな被害が出るかが予測できないからです。住宅で強風に弱いのは窓ガラスです。風は物に当たったとき、「風速」から「風圧力」に変わります。建物の外部に面した窓ガラスにもこの風圧力が作用します。窓ガラスは通常その地域で想定されている風圧力に破壊されないように設計されています。それを設計風圧力といいます。例えば都内の住宅であれば、2階の窓ガラスは計算上、最大瞬間風速48.0m/秒の風圧力に耐えられる強度設計となっています。このように窓ガラスは一定の風圧力には耐えられるのですが、小石や木片などの飛来物が当たると、点への衝撃で割れる可能性があります。ガラスが割られると負傷するだけでなく、強風が吹き込むことにより壁や天井が損傷する恐れがあります。
そこで強風対策として事前に窓ガラスの補強が急務です。一番安全なのは雨戸やシャッターを閉じることですが、最近の建物にはそれがないものも多くあります。そこで飛来物を防ぎ、ガラス飛散を防ぐための対策をしましょう。
- ❶べニヤ板を打ち付ける
- ❷ガラス飛散防止フィルムを貼る
- ❸養生テープを縦横斜めに貼る
こうした作業は強風が吹き荒れてからでは危険ですので、事前に行うことが大切です。そして、厚手のカーテンを引くことです。強風に襲われたら窓から離れ、窓のない部屋に退避してください。
防災大掃除と浸水対策
2014年に江戸川区小松川でタクシーなど車両9台が水没・立ち往生し、付近の住宅の一部も浸水しました。消防隊が排水溝に溜まっていた木の枝や枯葉を取り除いたところ、短時間で浸水は解消しました。最近増加しているのが、こうした目詰まり水害です。局所的豪雨時に排水溝に泥や枯葉が詰まって排水不能になることです。
そこで提案したいのが大雨シーズン前の「防災大掃除」です。梅雨入り前に、町内会、自主防災会、向こう三軒両隣などで声を掛け合って、排水溝や側溝の清掃を行っておく必要があります。通行の激しい道路などは危険ですので管理者に連絡して対応してもらうとよいと思います。地域だけでなく、自宅の防災大掃除も必要です。自宅周辺の側溝、バルコニーの排水口、雨どいなどの清掃も大切です。
そして、浸水想定区域にある低地住宅では、浸水に備えた土のう袋を準備するとよいと思います。
「土のうステーション」(緊急用簡易土のう置場)を設け、住民が自由に利用できるようにしている自治体もあります。
また、身近なもので土のうの代用品を作ることができます。ごみ袋を二重にして水を注入し口を縛る「水のう」です。出入口に水のうを入れた段ボール箱を並べ、ブルーシートで巻けば、簡易防水堤(シート巻き止水堤)を作ることができます。低地の1階にある浴室などの排水口からの逆流浸水の恐れがあれば、水のうを載せて防げます。
- 水のうのつくり方
-
- ①ゴミ袋を二重にし注水
- ②空気を抜きしばる
- ③浴室排水口の上に
- ④便器の中に
- ⑤段ボールに水のう
- ⑥シート巻き止水堤
大雨になってから慌てて対応するのではなく、事前に訓練しておくとよいと思います。
賢い防災備蓄
大雨だけでなく、地震対策としても重要なのが防災備蓄です。大雨や台風時に何が起きるか展開を予測し、結果として生じ得る事象に備えることです。
❶停電対策
ランタン、懐中電灯、携帯ラジオ、モバイル充電器、予備電池など
❷断水対策
非常用トイレ、非常用飲料水、消毒薬など
❸物流混乱対策
非常用食料、生活必需品など
❹緊急避難対策
非常持ち出し袋、持病の薬、お薬手帳、ウエットティッシュ、マイ体温計、予備マスク、着替え、厚手の靴下、懐中電灯、携帯ラジオ、スマホ充電器、予備電池、耳栓、アイマスク、歯ブラシセット、タオル・せっけん、貴重品、緊急連絡先、身分証明・保険証などのコピー、ごみ袋など