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伝え方を工夫することが、カスハラのない社会へ繋がっていく

東京都産業労働局 雇用就業部 労働環境課

1.はじめに

働く人へのカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」という。は、働く人を傷つけるのみならず、商品又はサービスの提供を受ける環境や事業の継続に悪影響を及ぼす重大な問題です。また、セクハラやパワハラなど従来の職場のハラスメントとは異なり、加害者が職場の外にいるため、事業者の努力だけでは防ぐことが困難です。このため、東京都では、令和7年4月1日に、働く人に対するカスハラをあらゆる場面で禁止する「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行しました。本条例の目的は、顧客等の豊かな消費生活、働く人の安全・健康の確保、事業者の安定した事業活動の促進、これにより公正で持続可能な社会の実現に寄与するとし、カスハラを社会全体で防止することや、顧客等と就業者が対等の立場で相互に尊重することなどを基本理念としています。労働環境の問題にとどまらず、持続可能性や快適な消費環境の実現を強調している点がポイントです。また、本条例の条文や運用の方法を解説する「ガイドライン」も策定しました。

令和8年10月1日には、改正労働施策総合推進法が施行し、事業主による職場のカスハラ防止措置が義務化されるなど、カスハラの防止に向けた取組が社会全体で進められています。

今回は、東京都が制定した条例の内容を踏まえ、カスハラとはどういうものなのかを解説するとともに、カスハラにならないように、日ごろの消費活動の中でどのように意見を伝えるべきか、伝え方のポイントをご紹介します。

2.条例の内容について

①カスハラとは

条例において「カスハラ」とは、①顧客等から就業者に対する②著しい迷惑行為であり③就業環境を害するものとし、①から③まですべてを満たすものが該当します(主体の定義については後述)

「著しい迷惑行為」は、暴行や脅迫などの違法な行為、又は、正当な理由のない過度な要求や暴言などの不当な行為を指します。

「違法な行為」は、刑法などに抵触する行為で、その時点で著しい迷惑行為に該当し、犯罪として処罰される可能性もあります。

「不当な行為」は、要求の内容が妥当でないものや、大きな声を上げて秩序を乱すなど「行為」の手段・態様が不相当であるものを指します。不相当であるか否かの判断は、行為に至る経緯(就業者の言動がきっかけとなる場合もあります。行為がどのくらい継続しているか、業種の特質、就業者と行為者との関係性などの要素を総合的に考慮する必要があります。

「就業環境を害する」とは、就業者が身体的又は精神的な苦痛を与えられたことで、業務遂行上、看過できない程度の支障が生じることとしています。このため、正当な理由に基づき、社会通念上相当であると認められる手段・態様による、顧客等から就業者への申出(苦情・意見・要望等)自体は妨げられるものではありません。

条例では、カスハラを受ける側を「就業者」と表現し、都内で業務に従事する者と定義しています。労働基準法等で保護される、いわゆる「労働者」のほか、有償・無償を問わず働く人は全て対象とし、フリーランスやボランティアなども対象とした点もポイントです。

カスハラをする側になり得る人は「顧客等」と表現しています。「顧客」とは、商品やサービスの提供を受ける人であり、商品の購入を検討している人や飲食店で列に並んでいる人なども対象となります。行政サービスを受ける人も顧客に該当します。

また、顧客「等」には、就業者の業務に密接に関係する者」を含みます。例えば、配達員が配達先の近隣の方から迷惑行為を受けるケース、道路工事の現場作業員が周辺住民から法外な騒音対策を求められる場合などを想定しています。

大切な視点の一つは、誰もが、ある場面ではカスハラを受ける「就業者」に、別の場面ではカスハラをする「顧客等」になり得るということです。自覚せず迷惑行為を行っている可能性もあります。こうした「誰もが被害者にも加害者にもなり得る」相互に尊重し合う」という考え方が、条例を通じて伝えたい最も重要な価値観です。

②カスハラの代表的な行為類型

カスハラに該当し得る代表的なものは、要求内容が妥当性を欠くケースです。商品に欠陥がないにも関わらず交換を要求したり、就業者にとって全く関係のないことを根拠に賠償を要求したりすることなどの行為を指します。こうした要求は、そもそも拒否できますが、継続して執拗に行われたり、暴言や脅迫を伴った場合にカスハラに該当します。

要求を実現するための手段や態様が違法、不相当なケースもあります。殴る、蹴るなど身体的な攻撃や危害を加える言動が該当します。これらは当然、暴行罪や脅迫罪など処罰の対象となる犯罪行為に該当します。また、威圧的な言動、拘束、個人への嫌がらせなども該当します。

根拠のある要求であっても、要求内容の妥当性に照らして「手段・態様が不相当」となることがあります。例えば、商品やサービスに瑕疵があった場合に何らかの対応を求めること自体は消費者の正当な権利ですが、著しく高額な金銭賠償や入手困難な商品の提供を要求する行為は、不相当な行為といえます。また、法律を変えろ」など就業者がコントロールできないことの要求や、誠意を見せろ」など何をしてほしいのかが分からないような要求も、程度によってはカスハラといえます。

なお、これらの行為類型は、あくまで例示であり限定列挙ではありません。また、就業者の業務内容によって顧客等との接し方は異なり、実際の個別の状況などにより判断が異なる場合もあります。

東京都カスハラ防止条例ロゴ
東京都カスハラ防止条例ロゴ・フレーズ

3.顧客等として心掛けたい上手な意思疎通のヒント

①顧客等への配慮

本来、クレーム自体は業務改善やサービス向上につながるものであり機会が確保されるべきです。そのため、正当なクレームは不当に制限されてはなりません。また、就業者が応対する顧客等の中には、障害のある人や認知症の人など合理的配慮が必要な方もいます。

このため、条例では、就業者の責務としてカスハラの防止に資する行動をとることを定め、ガイドラインでも、正当な申出の初期段階から顧客等の心情に配慮した適切な言動を行うことが重要としています。また、条例では「顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意する」との配慮規定を置いています。配慮が求められる権利として、ガイドラインでは次のようなものを示しています(一部の法律名は略称)

ア  消費者 消費者基本法第2条に規定する権利の実現や国際消費者機構が提唱する消費者の責務(下表)を果たす機会が失われないよう留意する必要

〈表〉 消費者の権利と責任

消費者基本法第2条に定める消費者の権利
  1. ①消費生活における基本的な需要が満たされる権利
  2. ②健全な生活環境が確保される権利
  3. ③安全が確保される権利
  4. ④選択の機会が確保される権利
  5. ⑤必要な情報が提供される権利
  6. ⑥教育の機会が提供される権利
  7. ⑦意見が政策に反映される権利
  8. ⑧適切・迅速に救済される権利
国際消費者機構(Consumers International : CI)が提唱する消費者の責任
  1. ①批判的意識を持つ責任
  2. ②主張し行動する責任
  3. ③社会的弱者への配慮責任
  4. ④環境への配慮責任
  5. ⑤連帯する責任

(出典)東京都産業労働局「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」

イ  障害者 障害者差別解消法第8条では、事業者が必要かつ合理的な配慮をする責務を有する旨の規定があり、障害者の権利の保護に留意する必要

ウ  認知症 認知症基本法第7条に規定する事業者は、認知症の人に対し必要かつ合理的な配慮をする責務を有しており、認知症の人の権利の保護に十分に留意する必要

エ  表現の自由等 全ての国民に対し憲法により表現の自由が保障されており、その他の憲法で保障される自由と権利の保護に留意する必要

適切に意見を伝えられれば、相手のお店や企業も同じ問題を繰り返さないための方策を検討するきっかけになるので、双方にとってプラスに働きます。消費者の意見や苦情が良い結果をもたらした事例も多くあり、これは、消費者市民社会の形成につながります。しかし、正当なクレームを事業者に伝え消費者の権利を実現するためには、カスハラにならないよう、適切な方法で伝えることが大切です。行き過ぎた言動で相手を怖がらせたり傷つけたりすることは、正当な意見や苦情を伝えることとは異なり、顧客ならば何をしても許されるという訳ではありません。

意見や苦情を、怒りの感情のまま自分の気持ちや考えを一方的に伝えるのではなく、相手がどのように受けとめるのかを想像し、本来の目的は何かを見失うことなく伝え、カスハラだと受け取られないためにどのような工夫をすればよいか、確認していきましょう。

②意見の伝え方のポイントを知る

自分が受けたサービスに不満をもったり、商品に欠陥等があるときは、意見や苦情を伝え正当なサービスを求めることが大切です。ただ、その意見がカスハラと受け取られないために、内容が妥当なのか、伝え方が適切なのか、今一度確認することが大切です。消費者庁作成の啓発冊子(※)では、上手な意見の伝え方を提示しています。一消費者として、相手に意見や苦情を伝える際のコツがありますので、ぜひ取り入れてみてください。

まずは「ひと呼吸、おくこと」です。人は深呼吸をすると副交感神経が働いて、冷静にコミュニケーションができるようになります。怒りの感情に自分が飲み込まれないよう、心を整えてから伝えるように心がけましょう。感情的な言動にならないよう、まずはひと呼吸おいて冷静に。気持ちを落ち着けましょう。

次に、具体的に伝えること」も大切です。何を、どのようにしてほしいのか、またその理由について、相手に分かるように具体的に伝えましょう。こうすると、対応する側も何をしたらよいかすぐにわかるため、時間をかけないで問題を解決できます。反対に「誠意を見せろ」などのあいまいな表現は、問題をこじらせることになってしまいます。また、この時に、暴力や暴言は決して行ってはいけません。

意見を伝えたら、相手の話を最後まで聞き」ましょう。なぜなら、起こっている問題がこちらの勘違いである可能性もあるからです。例えば、商品の使用方法について、説明書などをよく確認していない場合や、事前に説明されていても理解ができていない場合などは、誤った使い方をしてしまうこともあります。誰もが間違ったりすることはありますし、それを恥ずかしく思う必要もありません。お互いによく話を聴いて確認することが、本来の問題を解決する近道になります。一方的に話をせず、相手の言い分や理由を最後までしっかり聞いて、理解するようにしましょう。

併せて、相手(従業員等)の立場を理解すること」が大切です。担当者によってはすぐに対応できない場合もあるからです。

そして、相手への配慮をもって接すること」を心がけましょう。お互いが対等な立場で、しっかりとコミュニケーションをとる、ということです。行き過ぎた言動は相手を傷つけてしまいます。お互いに敬意をもち、相手を思いやって、尊重し合うことが大切です。

意図せず無意識に行った行為でも、それが顧客等から就業者に対する著しい迷惑行為であり、就業環境を害するものであった場合は、カスハラに該当する可能性があります。消費者とお店や会社は、どちらか一方が偉くて、他方が偉くない、というような上下関係ではありません。事業者に意見を伝える場合には、前述の上手な意見の伝え方も参考にし、カスハラにならないように気を付けましょう。

誰もが消費者であることを考えれば、自分も意見や苦情を伝える立場になる可能性があります。その際の一人ひとりの心がけで、カスハラを予防することが大切です。

これらの対応については消費者庁のサイトでも紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

4.終わりに

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が目指すものは、加害者も被害者も作らない社会をつくることです。そのためには、働く人と顧客等は対等な立場であること、誰もがカスハラを受ける側にも行う側にもなり得ることを理解し、お互いの立場を尊重し合うということが大切です。

就学中の児童・生徒にとっては、カスハラを受ける「働く人」になるのはまだ少し先のことで、まだ身近な問題に感じていないかもしれませんが、カスハラは、誰もが身の回りで起こり得る問題です。

例えば、お店で買い物する際に、店員さんに迷惑な行為を行っていないだろうかと自分の行動を顧みることや、自分の家族がカスハラの被害にあっていないだろうかと考えてみること。そういった日常に潜むカスハラについて考えてみることが、カスハラをなくしていく第一歩になるかもしれません。

小さな疑問や関心を持つことが、社会全体のルールやマナーを学ぶきっかけになります。自分自身や周りの大切な人が傷つくことのないよう、普段の生活の中で少しずつ視野を広げていくことがカスハラの防止にも繋がります。

働く人と顧客等がお互いへの思いやりを持ち、カスハラのない、よりよい社会をつくる一員として行動することを心がけましょう。

TOKYOノーカスハラ支援ナビロゴ

TOKYOノーカスハラ支援ナビ」では、カスハラに関する様々な情報を発信しています。

https://www.nocushara.metro.tokyo.lg.jp/

※)消費者庁 ぼのぼのと考えよう カスハラってなんのこと?
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/teaching_material/business_education/assets/consumer_education_cms203_20250411_01.pdf