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ステルスマーケティングの実態と身の守り方

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授 山口 真一

1はじめに

2023年10月1日から、ステルスマーケティングが不当表示として景品表示法違反となりました。ステルスマーケティングとは、広告活動であることを消費者に対して明示せず、製品やサービスの宣伝を行うマーケティング手法を指します。企業が消費者のふりをしてSNS、通販サイトのレビュー、クチコミサイトなどで製品・サービスの利点を投稿するようなことが該当します。企業自身が直接行うケースもあれば、一般消費者を装ってクチコミを投稿する業者に依頼したり、芸能人やインフルエンサーといった著名人に依頼したりするケースもあります。また、競合他社の製品に対してネガティブなクチコミを投稿するものもあります。

人々がクチコミを信用する理由は、企業と関係のない第三者による感想であるため、情報の非対称性(企業と消費者で持っている情報に格差がある状態)が解消されるということにあります。しかしステルスマーケティングは、その第三者による感想という前提を覆し、消費者が誤って製品の宣伝内容を真実の消費者経験と認識してしまう可能性があります。

本稿では、近年注目を集めているステルスマーケティングの実態について深く掘り下げます。ステルスマーケティングがどのような形をとっているのか、規制の主な焦点は何であるか、特に学生たちがどのような形でこれらの隠された広告手法に曝されているか、私たち消費者が身を守るにはどうすればよいかについて考察します。

2ステルスマーケティングのパターン

ステルスマーケティングの主なパターンは、「著名人から自社製品・サービスに有利な感想を発信してもらう」「クチコミサイトや通販サイトレビューでの偽レビュー」、「一般人のふりをしたアカウントでの情報発信」の3つです。

(1)著名人から自社製品・サービスに有利な感想を発信してもらう

テレビにも出ているような芸能人や、SNSや動画共有サービスで人気のインフルエンサーに依頼し、あたかも個人的な意見や体験として、自社の製品・サービスについて肯定的な感想をSNSや公の場で発信してもらいます。重要なのは、これらの発信が実際には企業からの依頼や支援を受けているにもかかわらず、それを明示しないことです。

このようなステルスマーケティングは日本でもたびたび問題になっています。2012年に多くの芸能人があるオークションサイトのステルスマーケティングに関与していたことが発覚した事例は、マスメディアも取り上げて大きく話題となり、関わっていた一部の芸能人が活動を自粛するに至りました。

やり方も多様化しています。例えば、動画共有サービスで有名なインフルエンサーに製品・サービスを提供し、その感想動画という形式で製品・サービスを褒める動画を投稿してもらうという手法があります。他には、漫画家に対して自社の製品・サービスを提供し、感想漫画として投稿してもらうという方法も見られます。SNS上では漫画コンテンツは拡散されやすいため、それを狙ったものになります。過去には大手エンターテインメント会社が、映画の試写会に多くの漫画家を招いて感想漫画をSNSに投稿してもらったにもかかわらず、依頼したことを明示しなかったことで消費者に問題視され、批判が集中する炎上状態となったことがあります。このケースでは、同時に複数の漫画家から映画の感想漫画が投稿されたことで、消費者がステルスマーケティングに気付きました。

以上のことが示すのは、人気の動画共有サービスでもSNSでも、場所を問わずステルスマーケティングは起こっているということです。

(2)クチコミサイトや通販サイトレビューでの偽レビュー

2012年、大手飲食店クチコミサイトにおける有料クチコミ投稿業者の存在が明らかになり、大きな話題となりました。このような業者は飲食店側にクチコミを代行して書くことを提案し、どの程度売り上げに効果があるか営業して依頼を受けます。業者自身がクチコミを書くケースもあれば、嘘のレビューを書く個人と依頼したい企業を仲介する業者が関与している場合もあります。この種の業者は海外にも多数存在し、インターネットの普及と共に国際的な市場へと発展しています。さらに、地図アプリにおけるクチコミも、同様の問題に直面しています。

また、自社製品やサービスに対する肯定的なレビューのみならず、競合他社の製品やサービスに対する否定的なレビューも存在します。NHKが以前報じた事例では、大手通販サイトにおいて、ある購入された製品が返品され、「爆発した」という低評価レビューをつけられたケースがありました。しかし、返品された製品は実際には未開封の状態であり、明らかに虚偽のクレームだったのです。それにもかかわらず、「〇〇(通販サイト名)で購入」とタグ付けされた虚偽のレビューが、その後も残り続けました。

多くの通販サイトでは、このような不正なレビューは禁止されており、削除対応が行われています。しかしながら、すべての不適切なレビューを完全に取り除くことは、実質的に不可能というのが現状です。これにより、多くの不正レビューが依然として存在し、消費者の選択に影響を及ぼしているのです。

(3)一般人のふりをしたアカウントでの情報発信

企業が実在しない人物のSNSアカウントを作成し、自社の製品・サービスの紹介をしたり、褒める投稿をしたりするケースがあります。アカウントは、日常の出来事や一般的な興味・関心事に関して普段投稿することで、実在の人物としての信憑性を構築します。そして、製品・サービスについて言及する際に、自然な会話や体験談の形を取り、直接的な広告や宣伝とは異なるアプローチを採用します。

例えば以前、人名としていかにもありそうなアカウント名で、プロフィール欄に「おすすめの漫画を垂れ流します!!!」と書いていたアカウントがありました。そのアカウントでは様々な電子書籍を面白く紹介しており、数万人のフォロワーを獲得していました。しかし、実はある電子書籍サービス運営企業のアカウントであり、その企業の電子書籍について頻繁にXのプロモ広告機能(企業や個人が特定の投稿を広告としてX上で宣伝するために使用する機能。広告であることを示すために「プロモーション」とタグ付けされる)を利用して紹介していました。

企業が関与していることが発覚し、批判された際に、企業側はXのプロモ広告には「プロモーション」表記がされるためにステルスマーケティングには当たらないと反論しました。しかしながら、Xのプロモーション表記では広告主と発信者の関係性が良くわからないこと(ファンが自主的にプロモーション機能を使うこともある)“いいね”やリポスト経由で閲覧した場合やプロモーション期間終了後には「プロモーション」表記が消えてしまうことから、やはりステルスマーケティングであると批判されました。

一方、同じように一漫画ファンのアカウントの形式をとっていながら、他の書店アカウントで批判の対象になっていないケースもあります。そのアカウントは、プロフィール欄に「〇〇(電子書籍サービス)の書店員が運営するアカウントです」と明示していたためです。

また、偽アカウントを大量に作る手法もあります。偽アカウントを大量に作ってフォロワー数やチャンネル登録者数を増やしたり、自動投稿システムなどを使って製品・サービスを褒める投稿を大量にさせたりすることで、あたかも多くの人に支持されているかのように見せる手法です。

3ステルスマーケティングの問題点

これらのステルスマーケティングは、次の2つの問題を抱えます。

まず、広告表示がある場合とない場合では、読む側の警戒心に大きな差が生じます。明示的な広告は、消費者に「これは企業が製品やサービスを推進するためのものである」という認識を与えます。これに対して、ステルスマーケティングでは、消費者は情報が広告であると認識せず、その情報を個人の正直な評価や推薦として受け取ります。このような偽装された情報に基づいて消費者が製品を選択することは、消費者の意思決定を歪め、不公正な市場環境を生み出すことになります。

景品表示法では、消費者が正当な商品選択を行うことを保護し、不正確あるいは誤解を招く広告によって消費者を欺瞞することを防ぐことを目的としています。ステルスマーケティングは、この法律の精神に反しており、消費者が十分な情報に基づいて製品を適切に選ぶ権利を侵害します。

さらに、ステルスマーケティングは市場における公正な競争を妨げる要因となります。一部の事業者が偽装広告を使用することで、他の事業者と比較して不当な利益を得る可能性があります。これは長期的には市場全体の健全性を損ない、消費者の信頼を失墜させる可能性があります。

以上のような背景から、国内外でステルスマーケティング規制の動きは活発になっています。

4海外におけるステルスマーケティング規制の状況

様々な手法で消費者の誤認を誘ってくるステルスマーケティング。欧米では既にステルスマーケティングは規制の対象となっています。例えばEUでは、不公正取引方法指令(不公正な商慣行に関するEU指令)(2005/29/EC)の下で規制されています。この指令は、消費者を欺く商慣行を禁止しており、特に「隠された商業的意図を持つ宣伝活動」についても禁止されています。この指令により、消費者に対して透明性を確保し、商慣行が公平であることを保証することが目的とされています。

また、米国では、連邦取引委員会(FTC)がステルスマーケティングを規制しています。FTCは2009年に「広告における推奨及び証言の利用に関する指針」を改訂し、有名人やインフルエンサーが製品やサービスを推薦する際、その関係が消費者に対して透明であることが求められるようになりました。そして広告であることの明示がないもので、企業とインフルエンサーなどに利益供与などの重大なつながりが発覚した場合、「欺瞞的な行為または慣行」として厳しく罰せられます。

52023年10月1日からの規制の要点

日本でも2022年9月以降、消費者庁の「ステルスマーケティングに関する検討会」でステルスマーケティング規制について議論され、同年12月に公表された報告書では、景品表示法5条3号に基づき、ステルスマーケティングを告示により不当表示と指定することが妥当とされました。その後、消費者庁はステルスマーケティングを規制する告示を発表し、2023年10月1日からそれが施行されました。

禁止対象のステルスマーケティングとは、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と定義されます。なお、規制されるのは製品・サービスを提供する事業者であり、依頼を受けて広告を表示した出版社やインフルエンサーなどは規制対象とはなりません。

例えば、第三者に成りすましてのSNS投稿や、第三者に投稿を依頼したものなどが該当します。広告であるにもかかわらず、個人の感想と偽って発信することが問題視されます。広告である旨が全く記載されていない場合だけでなく、消費者が広告であることを認識しにくい文言・場所・大きさ・色である場合や、動画において消費者が認識できないほど短時間で広告であることを表示している場合なども該当します。この場合、事業者と契約関係のある第三者やインフルエンサーは、「#広告」、「#有料パートナーシップ」、「#スポンサー」等のハッシュタグを付け、事業者との関係を明示する必要があります。ただし、大量のハッシュタグの中にそれらを紛れ込ませ、消費者が認識しづらい場合も問題となる可能性があります。

事業者がステルスマーケティング規制に違反した場合、消費者庁による措置命令が行われ、事業者が勧告に従わない場合は事業者名の公表、刑事罰の対象となり、2年以下の懲役又は300万円の罰金が課せられることがあります。

また重要な点として、2023年10月以降もインターネット上で表示している場合は、たとえ以前の投稿であったとしても規制の対象となります。事業者は新たに発信する情報に対してPR表記を行うだけでなく、過去の情報も点検する必要があります。

6私たち消費者はどのように対策できるか

過去に発信されたものまでさかのぼってステルスマーケティング規制の対象になるのは、現在のインターネット環境に接している消費者からすると大きなメリットでしょう。しかし現実的には、規制の対象になったからといって大量のステルスマーケティングが全て撲滅されるわけではなく、自衛もまた必要になってきます。

特に私が懸念しているのは、SNSや通販サイトを使い始めの学生たちです。SNSや通販サイトを見ていると、当たり前のようにステルスマーケティングと思われる投稿を見かけますし、さらに詐欺と思われる投稿など、多種多様な問題のある投稿や広告がタイムラインに流れてきます。10代からこのような情報環境に当たり前のように曝されているのかと思うと、恐怖すら感じます。

では、私たち消費者はどのように対策をすればよいでしょうか。ここでは有効な対策を4つご紹介します。

(1)広告表示の有無の確認

ステルスマーケティングが規制され、明確に広告であることが表示されても、それが広告であることを確認する作業を怠っていたら意味がありません。SNSや動画共有サービスで製品・サービスに関する投稿を見た時には、広告であることを示すハッシュタグや言及を探します。例えば、「#広告」「#スポンサー」「#PR」などのタグが付いているかどうかを確認しましょう。

(2)情報源の確認

製品やサービスに関する情報を共有している人が信頼できるかどうかを見極めることが重要です。例えば、製品レビューを行うインフルエンサーの過去の投稿をチェックし、その人たちが普段どのような内容を共有しているかを確認します。また、背景や関連性を考慮することも効果的です。例えば、ある製品・サービスに関して一貫して肯定的なレビューを投稿しているインフルエンサーは、スポンサー契約の可能性があります。

(3)クチコミやレビューの多角的確認

誰かのクチコミを安易に信じるのではなく、複数のソースから情報を得ることが重要です。製品・サービスについて、異なるウェブサイトやSNS投稿を確認することで、よりバランスの取れた見解を得ることができます。また、通販サイトのレビューにも業者によるものが多く存在しています。レビューの書かれた日付などを確認し、レビューのほとんどが短期間に大量に書き込まれていたら業者が投稿したものの可能性があります。AIを使ってレビューの真偽を判断するサービスもありますので、有効活用しましょう。

(4)批判的思考を身に付ける

提供されている情報を客観的に分析し、その信頼性を評価する習慣を身に付けます。極端に肯定的又は否定的な意見、一方的な見解、根拠のない主張などがあれば、その情報の信頼性に疑問を持つことが大切です。また、私の研究では、フェイク情報を見聞きした人のうち、その情報を誤っていると気付いていない人が77.5%もいることが分かっています。大半の人は、フェイク情報に騙されてしまうのです。自分も騙されるかもしれないと、謙虚な気持ちで情報に接し、常に批判的思考を持つことが大切です。

7学生たちに伝えたいこと

インターネット上での情報取得や発信において学生たちが心に留めておくべき重要な点があります。現代のインターネット環境では、ステルスマーケティングが数多く存在し、これらはしばしば一般の情報や感想として紛れ込んでいます。

そのため、学生たちが情報を受け取る際には、常に懐疑的な姿勢を保つことが重要です。ここまで書いてきたように、自分も騙されるという思いを持ち、広告表示の確認、情報源の確認、クチコミやレビューの多角的確認によって、自分の身を守ることが大切です。

また、学生たちが将来、インフルエンサーや情報発信者になる可能性も考慮する必要があります。インターネットで情報を発信すると、その情報が世界中に広がり、一度拡散された情報を完全に削除することは非常に困難です。したがって、発信する内容には責任を持ち、ステルスマーケティングはもちろん、その他の不正行為も避けることが大切です。情報発信は、発信者の信頼性や倫理観を反映する行為であり、その発信内容に対する評価は、長期的に発信者自身に影響を及ぼすことになります。インターネット上での発信は、その影響力と持続性を十分に理解し、慎重かつ責任を持って行うことが求められるのです。