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事故事例から製品安全を考える

独立行政法人 製品評価技術基盤機構 製品安全センター 情報解析企画課 課長 酒井 健一

1はじめに

私たちの身の回りには様々な製品があります。家庭のキッチンには冷蔵庫や電子レンジ、手軽な移動手段に用いられる自転車、連絡手段や娯楽にも利用されるスマートフォンなど、便利で快適な生活には欠かせない存在になっています。

一方で、製品の使用中にけがを負ったり、製品が発火して火災が発生したりすることがあります。自転車を走らせていて、不意に前輪がロックして転倒したり、就寝中に枕元で充電中のスマートフォンが発火したりする事故がその一例です。

このような事故を発生させないために、本稿では、製品事故が発生するシナリオ、製品事故を防ぐためのポイント、未然防止のためにできることなどについて解説します。

2製品事故とNITE

消費者の生活に用いられる目的で販売されている製品のことを、消費生活用製品安全法(以下「消安法」という。では「消費生活用製品」と呼んでいます。

独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下「NITE:ナイト」という。は消安法などに基づき、製品事故(※)の情報を収集し、事故の原因究明を行っています。そして、これらの事故の再発・未然防止のために、プレスリリースなどで安全情報を発信することで安全な社会づくりに貢献しています。

※)製品事故』とは、消費生活用製品の使用に伴い生じた事故のうち、①一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生した事故、②消費生活用製品が滅失し、又はき損した事故であって、一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生するおそれのあるもの、いずれかに該当するものです。ただし、消費生活用製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故は除きます。

3製品事故の動向

法規制による安全な製品の普及や、業界団体及び事業者の安全に対する取組、消費者への様々な注意喚起による安全意識の向上などにより、製品事故件数は減少傾向にあります。

図1 製品事故の発生件数推移(2019〜2023年度)

製品事故の発生件数推移(2019〜2023年度)に関する棒グラフ

事故が多く発生している製品群は、バッテリー類」と「自転車」です。バッテリー類」とは、モバイルバッテリーをはじめとする、主にリチウムイオンバッテリー(以下「LIB」という。を使用した製品の分類です。モバイル製品(スマートフォン、ノートパソコン、モバイルバッテリー)や、ワイヤレスイヤホン、コードレス掃除機のような製品では、このLIBが使用されていることが多く、火災に至る事故が発生しています。また、自転車」の分類には電動アシスト付き自転車を含みます。自転車の走行中に、部品欠陥や誤使用などにより発生する事故のほか、電動アシスト付き自転車では、先に述べたLIBによる火災の事故も発生しています。

表1 製品群別ランキング(2019〜2023年度)

ランク 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度 2023年度
1 バッテリー類 バッテリー類 ベッド バッテリー類 バッテリー類
2 自転車 乳母車・ベビーカー バッテリー類 自転車 照明器具
3 家具 自転車 自転車 電気調理器具 自転車
4 照明器具 家具 家具 エアコン 家具
5 パソコン 照明器具 照明器具 家具 エアコン

若年層においても同様に「自転車」バッテリー類」の事故が多く発生しています。

4製品の事故事例

ここでは、自転車」、バッテリー類」の事故事例について解説します。

1自転車

自転車の製品事故は人的被害に至る事故が多く、2019〜2023年では重傷事故が発生件数の68.3%を占めています。典型的な事故の発生例は、走行中にバランスを崩し転倒する」です。転倒のきっかけには以下のような事象があります。

  • 前輪に異物が挟み込まれて前輪がロックする。
  • 走行中にチェーンが外れる、又は破断する。
  • 溶接部に亀裂が入り、走行中に破断する。
  • 前輪を固定しているクイックレリーズ(工具無しでホイールを脱着できるパーツ)が緩み、走行中に前輪が脱落する。

図2 自転車の事故による危害状況(2019〜2023年)

自転車の事故による危害状況(2019〜2023年)に関する帯グラフ 死亡0.0% 重症68.3% 軽傷11.7% 拡大被害12.2% 製品破損6.7% 被害なし・不明0.2% 調査中0.9%

※「拡大被害」は、事故製品周辺の火災等物的被害を指す

事故事例

走行中、突然前輪がロックし、転倒、右肘を骨折した。

事故原因

前ホークが変形しており内側に擦り傷が認められ、前輪スポークの1本が破断していたことから、走行中に前輪へ異物が巻き込まれた可能性が考えられる。

異物を巻き込んで前輪がロックする状況に関するイラスト

図3 異物を巻き込んで前輪がロックする状況

2バッテリー類

バッテリー類の製品事故は、拡大被害(火災)が71.5%を占めています。そのほとんどはLIBによるものです。LIBの使用用途が拡大し、市場への流通台数の増加に伴い、発火事故が増加しています。典型的な事故の発生例は以下のとおりです。

  • 非純正バッテリーが充電中に発火する。電動工具、掃除機など)
  • リコール製品が充電中に発火する。モバイルバッテリー、ポータブル電源など)
  • 間違った充電方法により発火する。玩具など)
  • 消費者がバッテリー交換中に誤って傷付け発火する。スマートフォンなど)

図4 バッテリー類の事故による危害状況(2019〜2023年)

図4に関する帯グラフ 死亡0.1% 重傷0.6% 軽傷4.1% 拡大被害71.5% 器物破損22.5% 被害なし・不明0.3% 調査中1.0%

事故事例

充電中の扇風機付近から異音がして出火し、焼損した。

事故原因

リチウムイオン電池が内部ショートして異常発熱し、焼損したものと考えられる。

首にかけた携帯扇風機の発火に関する写真

図5 首にかけた携帯扇風機の発火

5製品事故を防ぐために

自転車やバッテリー類の製品事故を防ぐためのポイントを解説します。

1自転車

自転車は手軽で便利な乗り物ですが、慣れからくる油断や誤使用などにより大きな事故につながることがあります。以下のポイントに注意して、自転車の事故を防ぎましょう。

  • 歩行者や周囲の安全に十分配慮して乗る。
  • 取扱説明書に従い「正しく使う」。特に、ハンドルに買い物袋や傘などをぶら下げる誤使用は転倒リスクが高くなるため、絶対にしない。
  • 車輪やハンドルのがたつきなどの部品のゆがみや変形、及びブレーキの効き具合に不備がないか、乗車前に確認し、異常があれば購入店に持ち込む。

2バッテリー類

事故が発生したバッテリー類のほとんどにLIBが使用されています。LIBは、小型軽量、大容量といった特徴を活かして、モバイル製品、ポータブル電源などの電子機器だけでなく電動工具や電動アシスト自転車など身の回りの数多くの製品に使用されています。

図6 リチウムイオンバッテリーLIB)構造

リチウムイオンバッテリー(LIB)の構造に関するイラスト

出典:http://www.toray-research.co.jp/technical-info/trcnews/pdf/201705-01.pdf

LIBの内部には可燃性のガスなどが含まれており、一度事故が発生すると火災などの大きな被害に発展します。以下のポイントに注意してLIBの事故を防ぎましょう。

  • LIBは精密機械のため丁寧に扱う。
    落とすなど衝撃を与えたり、夏場、特に高温となる自動車内や直射日光の当たる窓際などに放置したりせず、取扱説明書どおりに「正しく使う」。
  • 充電ケーブルのコネクターには水分等の導電性異物が付かないようにする。
  • 充電時のアダプターは、バッテリー付属のものを使用する。
  • 充電が行われなかったり、充電中に通常よりも熱くなったり、膨張や変形、突然電源が切れたりするような異常が見られたときは、直ちに使用を中止して、購入店又は製造・輸入事業者の修理窓口に相談する。
  • 非純正バッテリーの取扱いについて
    非純正バッテリーとは、機器本体のメーカーとは無関係の事業者から販売されているバッテリーです。機器本体のメーカーは、そのバッテリーの設計や品質管理に一切関与していません。非純正バッテリーは、純正品に比べて低価格の製品も多く、いわゆるコスパが良い魅力的な製品ですが、以下のようなリスクもあります。
    • 設計に問題があり、異常発生時に安全保護装置が作動しない。
    • 品質管理が不十分で、通常の使用であっても異常が発生する。
    • 事故が発生した際に事業者の対応や補償を受けられない。

6LIBの廃棄について

製品事故ではありませんが、最近では、捨てられたLIBにより廃棄の現場で発火する事故が発生し、大きな社会問題になっています。廃棄する製品にLIBが使用されていることに気付かずに捨てている消費者が少なくないと推定されます。充電して使う製品を捨てる際には次のポイントに注意してください。

  • LIBを使用している製品の廃棄は分別方法などを含め各自治体の指示に従い「正しく捨てる」。
  • 取り出した電池の表面のリサイクルマークの表示を確認する。
    リサイクルマーク

    LIBのリサイクルマーク

  • 廃棄の際には放電又は電池を使い切る。
  • 一般社団法人JBRC(※)の会員企業の電池(破損・変形がないもの)は、排出協力店又は協力自治体に持ち込む。
    ※)2001年施行「資源有効利用促進法」に基づき、小型充電式電池のリサイクル活動を共同で行う団体
  • メーカーや販売店の製品回収サービスを利用することも可能。

7未然防止のために消費者ができること

NITEが収集する製品事故は減少しています。しかし、新奇な製品の事故や消費者の誤使用事故は後を絶ちません。では製品事故を未然に防ぐために消費者ができることは何でしょうか。例えば、消費者が製品を購入する際は、製品の価格や見栄えだけでなく、安全性やアフターサービスなども確認する必要があります。なお、安全面に配慮された製品には表示やマークが付けられています。マークや購入元を十分確認してから購入しましょう。

PSEマーク

表示やマークの例
電気用品安全法(PSEマーク)

製品事故のリスク低減のためには、社会に安全文化の醸成が必要です。公的機関や製造・輸入・販売事業者のみならず、消費者を含めたその製品に関わるすべての人が、立場が違っても安全を最優先に、かつ積極的に働きかけていく社会です。NITEは収集した製品事故の原因究明・調査結果を整理した安全情報を社会に提供することで、安全文化の醸成を支援します。SNSをはじめとする様々なメディアを利用して、安全情報を幅広い世代に向けて提供することで、製品事故の再発・未然防止活動に力を入れています。

製品事故の未然防止に特効薬はありません。NITEが提供する安全情報を入手し、製品を正しく使うことが早道と考えています。

8生徒へのアドバイス

NITEが実施した行動変容調査の結果では、若年層は安全情報を受け取ったあとも安全行動を取る割合が低いことが判明しています。

そこで、若者に製品事故の未然防止に興味を持っていただくために、近年は科学系YouTubeチャンネル GENKI LABOとコラボをするなど多様な媒体で発信しています。

また、製品事故やリコール情報が検索できるWeb検索ツール「NITE SAFE-Lite」もお薦めします。このサイトは、専門的な知識は不要で、日頃から使っている感覚的な言葉でも、事故情報の検索が可能です。製品事故リスクへの気づきに活用できます。

未来を担う若年層が「NITE SAFE-Lite」で最新の安全情報を入手活用し、製品事故の防止につながるようになることを願います。

※ 図表の出典は、いずれもNITEの調査、プレスリリース、発表資料による