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取引デジタルプラットフォームにおける消費者取引について

弁護士・ひかり総合法律事務所/理化学研究所革新知能統合研究センター客員主管研究員/国立情報学研究所客員教授/大阪大学社会技術共創研究センター招へい教授 板倉陽一郎

1.はじめに

本稿では、生徒が利用することもある、オンラインモールやフリマアプリなどの取引デジタルプラットフォームにおける消費者取引について、その特徴等を確認した上で、2021年に成立した新法「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(令和3年法律第32号。以下、「取引DPF法」といいます。)の概要を解説し、これを踏まえて生徒を含む消費者へのアドバイスを簡単に述べます。

2.デジタルプラットフォームの定義と特徴

(1)デジタルプラットフォームの定義

法律上の概念としての「デジタルプラットフォーム」(以下、「DPF」といいます。)は、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(令和2年法律第38号、以下、「取引透明化法」といいます。)で定義されており、「多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築した場であって、当該場において商品、役務又は権利(以下「商品等」という。)を提供しようとする者の当該商品等に係る情報を表示することを常態とする(①)もの(次の各号のいずれかに掲げる関係を利用したものに限る。)を、多数の者にインターネットその他の高度情報通信ネットワーク(中略)を通じて提供する(②)役務をいう。」、「当該役務を利用して商品等を提供しようとする者(以下この号及び次号において「提供者」という。)の増加に伴い、当該商品等の提供を受けようとする者(以下この号において「被提供者」という。)の便益が著しく増進され、これにより被提供者が増加し、その増加に伴い提供者の便益が著しく増進され、これにより提供者が更に増加する関係(③-1)」、「当該役務を利用する者(提供者を除く。以下この号において同じ。)の増加に伴い、他の当該役務を利用する者の便益が著しく増進され、これにより当該役務を利用する者が更に増加するとともに、その増加に伴い提供者の便益も著しく増進され、これにより提供者も増加する関係(③-2)」とされています。

①は、両面市場ないし多面市場と呼ばれる特徴であり、商品等を提供しようとするもの(以下、分かりやすく「店子」といいます。)と、提供を受けようとする者をつなぐ場であることを示しています。つまり、店子が存在せず、一社が通信販売を行うような場合には、そのサービスについてはいくら巨大でもDPFとは言いません。DPFが店子と並んで自らも商品を販売していることもありますが、その部分は、法律上はDPFではありません(普通の通信販売です)。

②は、インターネットを通じて提供されるサービスであるということです。店子がたくさんいても、デパートや商店街はDPFではありません。

③-1及び2はネットワーク効果と呼ばれる特徴です。店子が増加すると、選択肢が増えるため、利用者の便益が増加するという関係が間接ネットワーク効果であり(③-1)、例えばショッピングモールではこの特徴が強く出ます。利用者が増加すると、利用者自身の便益が増加するという関係が直接ネットワーク効果にあたります(③-2)。例えば、SNS等では、利用者が増えると、相互のインタラクションが増加し、より利用が活発化します。

DPFで行われる取引は、事業者・消費者間の消費者取引に限定されているわけではありません。消費者間取引も、事業者間取引も含む可能性があります。また、物品が介在する必要も、有償である必要もありません。これらの、対象とする事象の限定は、取引DPF法の中で行われています(後述します)。

(2)デジタルプラットフォームの特徴

DPFはネットワーク効果を最大限利用しようとするため、店子についても、利用者についても、参加のハードルを下げています。そこで、生徒が店子(例えば、フリマアプリの売手)になったり、利用者になったりすることは十分に考えられます。事前の、親権者等の法定代理人(以下、単に「親権者等」といいます。)の同意の確認が甘いのです。同意しているというチェックボックスは存在する場合がありますが、一般的には、それ以上のチェックはありません。また、DPF上のサービスでは、店子と取引をしているのか、DPF自身と取引しているのか、利用者から分かりづらい場合があります。消費者が生徒の場合は、大人に比べれば一般的に判断力が劣りますので、より一層注意が必要です。さらに、取引がデジタルで完結すると、親権者等は、そこでの生徒の活動に気付きづらくなります。この点は、特定商取引法上の書面のデジタル化についての議論でも強調されていますが1、紙が残らないと、外部から観察しづらいのです。

3.取引DPF法の成立に至った背景等

取引DPF法の成立に至る議論は、2019年12月5日以降、消費者庁が設置した「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」(以下、「検討会」といいます。座長:依田高典京都大学教授)において12回に渡り行われましたが、特に立法のきっかけとなった事件としては、オンラインモールで購入した中国製モバイルバッテリーが発火し、居宅が全焼した事件や2、オンラインモールで販売されていた模倣品について、消費者庁が行政調査までしたものの、モールが把握していた連絡先はもぬけの殻であり、公示送達による行政命令の発出を余儀なくされた事件3などがあります。

DPFの関係する取引における消費者トラブルの傾向としては消費者取引(BtoC)を提供するオンライン・ショッピングモール/インターネット・オークションに関し、2018年4月から6月の事案を消費者庁が分析したところ、「提供された場での取引(出店事業者・買主間の取引)に関する相談(1670件)のうち買主からの相談(1659件)について、債務不履行の被害(商品が届かない、模倣品が送られてきた、商品が壊れている・使用できない・品質に問題があるなど)が半分以上(901件(54%))とされています。未成年者からの相談も33件ありました。また、消費者取引(CtoC)を提供するフリマサービスに関し、2018年度の事案を消費者庁が分析したところ、「2018年度のフリマサービスに関係する相談(3885件)のうち、買主からの相談が約8割(3144件(81%))、売主(出品者)からの相談が約2割(741件(19%))」「買主からの相談のうち、債務不履行の被害(商品が届かない、模倣品が送られてきた、商品が壊れている・使用できない・品質に問題があるなど)が大半(約8割(81%))」とされています。未成年者の契約案件も321件含まれています4

4.取引DPF法の概要5

(1)目的

取引DPF法は、最終的な目的を「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益を保護すること」としており、これは、本法が明確に消費者保護法であることを表しています。

対象は「特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号、以下、「特商法」といいます。)第2条第2項に規定する通信販売」であり、特商法の定義上、主体が「販売業者又は役務提供事業者」に限られています。つまり、本法は、DPFで行われるBtoC取引のみを対象とし、CtoC取引は対象としておりません。Cを装っているB、いわゆる「隠れB」は対象となりますが、生徒も多く利用するCtoCのフリマアプリなどの取引DPFは対象ではなく、引き続きの検討が求められます。

(2)定義

法の主たる対象は「取引デジタルプラットフォーム提供者」(以下、「取引DPF提供者」といいます。)であり、「事業として、取引デジタルプラットフォームを単独で又は共同して提供する者をいう」と定義されています。そして、「取引デジタルプラットフォーム」は、取引透明化法に規定するDPFのうち、要すればオンラインモールか、ネットオークションに該当するものを対象としています。定義が取引DPF法と取引透明化法で行き来するので注意が必要です。オンラインモール、ネットオークションやフリマサイトのほかにも、出前サイト、いわゆるライブコマース、宿泊予約サイト、寄付にとどまらないクラウドファンディングサイトについて取引DPFに該当しうるとされています。

(3)取引DPF提供者の努力義務

取引DPF提供者には、三つの努力義務が課せられました。

  1. ① 取引DPFにおける通信販売に係る取引について、消費者が販売業者等と円滑に連絡することができるようにするための措置を講ずること(メールアドレスの公開、メッセージフォーム等)
  2. ② 取引DPFを利用する消費者から苦情の申出を受けた場合に調査等必要と認める措置を講ずること
  3. ③ 店子等に対し、必要に応じて、その所在に関する情報等の提供を求めること(特に、連絡がつかないと消費者から苦情があった場合を想定)

これらの措置を講じた場合、開示することも義務付けられました。

(4)取引DPFの利用の停止等に係る要請

店子が危険商品等を出品していて、当該店子に連絡がつかない等、是正手段がない場合には、内閣総理大臣(消費者庁)が、取引DPF提供者に対し、店子の出品を削除させる等の要請を行うことができます。

(5)販売業者等情報の開示請求

取引DPFで販売業者等が消費者トラブルを起こした場合、販売業者等が特商法上の表示義務を守っていなければ、消費者は訴訟を起こすこともできません。そこで、消費者が損害賠償請求等を行う場合に必要な範囲で店子の情報の開示を請求できる権利が創設されました。ただし、損害賠償請求額が一定金額以下の場合は対象外です。

(6)官民協議会

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護のための取組を効果的かつ円滑に行うため、内閣総理大臣(消費者庁)、国の関係行政機関、取引デジタルプラットフォーム提供者を構成員とする団体、独立行政法人国民生活センター、地方公共団体及び消費者団体により構成される取引デジタルプラットフォーム官民協議会(官民協議会)が創設されます。取引DPFのさまざまな消費者問題が話し合われる予定です。

(7)申出制度

誰でも、内閣総理大臣(消費者庁)に対して、消費者の利益が害されるおそれがあると申し出ることができます。申出が真実の場合は、内閣総理大臣(消費者庁)には適当な措置が求められます。

(8)附則

本法の施行は公布の日である2021年5月10日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日です。施行後3年の見直し条項がありますので、4〜5年後くらいには改正が予定されているということになります。

5.生徒へのアドバイス

取引DPF法は、取引DPF提供者に一定の努力義務を課し、店子に連絡がつかない場合には危険商品等について、消費者庁に出品停止等を要請する権限を与えていますが、いずれも、行政処分や罰則を伴うものではありません。店子の情報についての開示請求権が法定されましたが、一定の制限があります。また、生徒も多く参加していると思われるCtoC取引は対象ではありません。これは、それなりに体制整備等に意欲を持つDPFが主たる対象となっている他、あくまで、取引DPF提供者の責任は(店子の責任と比して)二次的なものであると整理されたことによるものです。したがって、取引DPF法は、DPFにおける消費者保護を一歩前進させるものではありますが、あらゆる消費者トラブルが円満に解決されるというような期待は抱けません。最初から取引DPF法を遵守しようという気もない事業者のDPFは利用しないという行動も重要になります。取引DPF法に従って努力義務に関する措置を開示しているかどうかは、一つのバロメータになるでしょうし、店子の連絡先のコーナーを見て、きちんと表示されているかどうかをチェックするとか、DPFを用いる前に、DPF自体の評判をチェックする(アプリであればアプリの評価が参考になります)なども勧められます。

  1. 1 例えば、「親族が高齢者等の身の回りの書類を確認して初めて発覚するきっかけとして、契約時に交付された印刷書面が大きな役割を果たしてきたところ、契約書面等が電子化されると、そのような契機を失う。」との指摘があります。第1回特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会(2021年7月30日)【資料6】契約書面等の電磁的方法による提供について寄せられた御意見の概要(事務局資料)2頁。
  2. 2 第2回デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会(2020年1月27日)【資料4】ケーススタディ:デジタル・プラットフォームで販売された製品事故とその後の対応(日本弁護士連合会提出資料)。
  3. 3 消費者庁「デジタルプラットフォーム事業者が提供するショッピングモールサイトにおける偽ブランド品の販売に関する注意喚起」(令和2年4月7日)。
  4. 4 ODR活性化検討会(第7回)(令和2年3月16日)【資料1-1】消費者庁「デジタルプラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等について」(令和2年3月)。
  5. 5 本解説は、板倉陽一郎「「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」の制定経緯と概要」自由と正義72巻10号(2021年)15頁、同「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」の概要と企業対応の要点」ビジネス法務21巻8号(2021年)119頁と重複する部分を含みます。なお、立案担当者等の解説として、槇本英之・守屋惇史・石橋勇輝「「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」の概要」現代消費者法52号(2021年)70頁等があります。