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今なら間に合う! 成年年齢引下げに向けて、知っておきたいポイント解説

弁護士 中村新造

はじめに
成年年齢引下げまであと10ヶ月!

2022年(令和4年)4月1日、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。しかし、成年年齢は1896年以降ずっと20歳でしたから、急に18歳になると言われても、今一つピンと来ないのではないでしょうか。

「成年年齢が18歳になると自分や子どもたちの生活にはどんな影響があるのだろう?」「成年年齢が引き下げられたら、どんなことに気を付けたらよいのだろう?」「ちょっと待って、よく考えたら…そもそも成年年齢って何だろう?」。――皆さんの頭に浮かんだこのような“疑問”を、5つのポイントにまとめて解説したいと思います。

ポイント1
どうして2022年4月1日なの? 法律成立から3年もたったのに

2018年6月13日、成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする「民法の一部を改正する法律」が国会で成立しました。つまり、これまでの民法の一部が改正されたということです。新聞やテレビでも大きく報道されました。これにより、民法4条は「年齢二十歳をもって、成年とする。」から、「年齢十八歳をもって、成年とする。」と改正されました。なお、成年年齢の引下げのほかに、女性の婚姻年齢を18歳に引き上げて男女で統一するという点も改正されました。

さて、成年年齢引下げを定めた改正民法については、成立から約3年後の2022年4月1日から施行されることになっています。

法律の“成立”から“施行”まで3年間という極めて長い期間が設定されたのは、成年年齢引下げのための準備があまり整っていないため、“施行”まで十分な周知や準備のための期間が必要とされたからなのです。法律が“成立”した後に慌てて準備をするというのは、とても珍しいことです。

ポイント2
2022年4月1日…そのとき何が起こる?

2022年4月1日に改正民法が“施行”されることから、この日の時点で18歳以上20歳未満の人(具体的には、2002年4月2日〜2004年4月1日生まれの人)は、一斉に「成年」として取り扱われることになります。

それでは、実際にどれくらいの人が一斉に「成年」になるのでしょうか。総務省統計局が発表している「日本の統計(2021年版)」の「年齢各歳別人口(令和元年)」によれば、2019年(令和元年)時の15歳の人口は110万6000人、16歳人口は112万5000人ですので、2022年4月1日には実に200万人以上の若者が一斉に「成年」になることになります。

ポイント3
そもそも何が変わるの? 民法の成年年齢って何?

民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられると、それまで「未成年者」だった18歳以上20歳未満の人たちも「成年」として取り扱われることとなります。さて、実際には、どのような場面で「成年」と「未成年者」の違いが生じるのでしょうか。年齢が問題となる場面には、①飲酒、②買い物、③競馬、④運転免許、⑤選挙権、⑥成人式などがありますが、民法の成年年齢はどれと関係するのでしょうか。一緒に考えましょう。

この問いに答えるためには、民法の成年年齢が何について定めたものか、ということを理解する必要があります。そこで、まずはこの点をみていきます。

1. 未成年者取消権があるか …成年年齢の意味①

民法5条は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。(略)」(1項)、「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」(2項)と定めています。これにより、未成年者が契約(法律行為の代表例が契約です)をするときには法定代理人(親権者など)の同意が必要となりますが、仮にこの同意を得ずに契約してしまった場合は未成年者や法定代理人は契約を取り消すことができるとされているのです。この取消権を未成年者取消権といいます。

このような取消権が定められているのは、未成年者は判断能力が不十分であるため特に保護する必要があると考えられているからです。この未成年者取消権があるため、親権者に相談することなくうっかり高額の売買契約を結んでしまっても、未成年者の場合はすぐに取り消すことができますが、成年になった途端、この取消権は使えなくなり、販売業者の詐欺行為や消費者契約法違反などの特別な事情がなければ取り消すことはできません。

2. 親権の対象となるか …成年年齢の意味②

民法818条は「成年に達しない子は、父母の親権に服する。」(1項)と定めています。親権とは、未成年者の子に対して、監督・保護・教育をする権利と義務の総称のことをいいます。具体的には、子の住む場所を指定したり、働く際に許可をしたり、財産を管理したりすることができるというものです。親権とは、未成年者は肉体的にも精神的にも未発達で、経済的にも自立していないため親権者による保護が必要として定められたもので、成年になると親権は及ばなくなります。

3. 成年年齢が関係するものは?

以上のとおり、民法の成年年齢とは、①未成年者取消権があるか、②親権の対象となるか、という二つの点について定めたものということになります。

そして、成年になると親権者の同意なく「買い物」(売買契約)ができることになる反面、いったん結んだ契約について未成年者取消権は行使できなくなります。そこで、先ほどの質問(民法の成年年齢が関係するのは何か)の正解は、②の「買い物」となります。

ちなみに、①は「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」(2022年4月1日に「未成年者飲酒禁止法」から名称が変わります)、③は「競馬法」、④は「道路交通法」、⑤は「公職選挙法」によってそれぞれ年齢要件が定められており、⑥はそもそも法律上の制度ではありません。よって、②以外は民法の成年年齢とは直接関係がないのです。

ポイント4
未成年者取消権が使えなくなるとどうなる?

このように、成年年齢が18歳に引き下げられると、18歳以上20歳未満の人も成年となりますので、未成年者取消権が使えなくなります。そうすると、どのような不都合があるのでしょうか。実は未成年者取消権には、他の取消権に比べてとても使いやすく(一つ目の役割)、しかも、そのために目に見えない大きな効果(二つ目の役割)があるのです。

1. 「後戻りのための黄金の橋」 …未成年者取消権の役割①

未成年者が親権者の同意なく結んだ契約については、未成年者は容易に取り消すことができます。具体的には、契約時に自分が未成年者であることを立証すれば取消が認められます(例えば契約書と学生証を示すことで立証できます)。

これに対して、成年に達すると、いったん結んだ契約はなかなか取消しできません。詐欺、錯誤、消費者契約法違反、公序良俗違反などが考えられますが、いずれも厳しい要件をクリアする必要がありますし、裁判になると解決までに長い時間と費用がかかります。

ですから、契約時の年齢だけを立証すればよい未成年者取消権については、容易に取消しが認められて被害が回復できることから、「後戻りのための黄金の橋」といわれることがあります。

2. 「防波堤」 …未成年者取消権の役割②

このように、未成年者を勧誘して契約させても、結局、未成年者取消権で容易に取り消されてしまうことが分かっているので、悪質業者はあえて未成年者の勧誘を控えるという傾向があります。つまり、未成年者取消権が、目に見えない「防波堤」の役割を果たしていたので、知らず知らずのうちに、未成年者は悪質商法から守られていたのです。

しかし、成年年齢の引下げにより、18歳以上20歳未満の人たちにはこの「防波堤」による保護が及ばなくなってしまいます。ですから、高校3年生も18歳以上であれば保護されなくなります。成年年齢引下げの最大の問題点はこの点にあると言われています。

ポイント5
大人になる前にやっておくべきことは? 重要なのは消費者教育

成年になると未成年者だけが使えた「黄金の橋」も「防波堤」もなくなってしまうため、それまでに消費者教育を受けておく必要があります。特に、成年になるといったん結んだ契約は原則として取消しできないこと(契約の意味)や、お金の管理の仕方(金融教育)についてはしっかり学習する必要があります。

この二つをしっかり学習しなかったために陥ってしまうものとして、“多重債務”があると言われています。

“多重債務”とは、複数の業者から借金をして返済が困難になってしまった状態をいいます。貸金業者から借金をすることも契約ですから、いったん契約を結んだ以上はそこで定められた利息は支払わなければなりません。軽い気持ちで借入契約を結んでしまったり、きちんとした返済計画を立てていなかったりしたために、“多重債務”に陥ることがあるので十分な注意が必要です。

自分の収入で返済できない借入はするべきではありません。定収入がない学生のうちは決して借入はしないことが賢明です。

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契約やお金について学習しなかったために多重債務に陥ってしまう…実際にはなかなか体験できないことですので、このDVD教材でバーチャル体験することをお勧めします。学校や家庭で消費者教育を行う際に、是非ご活用ください。