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海賊版サイトをめぐる著作権法改正

骨董通り法律事務所 弁護士 橋本 阿友子

第1. はじめに

近年、インターネット上でコンテンツが違法にアップロードされている海賊版サイトの存在が、社会問題となりました。

海賊版サイトには、さまざまな種類があります。「リーチサイト」(サイトではなくアプリによるものもあります)は、違法にアップロードされた漫画や雑誌などの海賊版コンテンツを複製又は視聴できるリンクをまとめたサイト(アプリ)です。サイト自体にはコンテンツがアップロードされていませんが、ユーザーは、作品のリンクをクリックすることで、違法にアップロードされたコンテンツをダウンロード等して読める仕組みになっています。また、「オンラインリーディングサイト」は、サイトにアクセスするとストリーミングで作品が読めるサービスを提供しています。YouTube等にコンテンツを投稿する「動画投稿サイト」といった海賊版サイトもあります。

「リーチサイト」について、2016年には、「はるか夢の址」という、国内向け海賊版サイトの中でも最大級のリーチサイトが登場しました。「はるか夢の址」は、『NARUTO』等の人気漫画をサーバに記録・蔵置し、当該記録・蔵置場所を示すURLを記録・蔵置し、インターネットユーザーが閲覧できる状態においていました。2018年頃には、オンラインリーディングサイトの「漫画村」が広く利用されていました。「漫画村」は違法にスキャンした漫画を大量にインターネット上にアップロードして配信し、サイト閲覧者に無料で当該スキャンデータ化された作品を提供しており、オンラインリーディングサイトの代表格といえるサイトでした。「漫画村」は、2018年4月のサイト閉鎖までの間、『ONE PIECE』や『進撃の巨人』といった著名な漫画を含む7万冊超の作品を違法に配信し、広告収入によって巨額の利益を得ていました。このことは、国会でも取り上げられ、ブロッキング措置(インターネットの強制遮断措置)が検討されるなど、大きな社会問題を引き起こしました。

これら海賊版サイトの登場により、サイト閲覧者は、本や雑誌、電子書籍を購入しなくても、無料で作品を読めるようになり、その結果、漫画家・出版社は経済的に大きなダメージを受けました。統計では、「漫画村」によって約3,000億円分もの出版物が無償で読まれ、漫画家・出版社の収入・売上は、20%減となったと試算されています。「はるか夢の址」における被害も、摘発までの1年間で約731億円にのぼり、海賊版サイトによる影響は看過できないものとなりました。

「はるか夢の址」や「漫画村」は閉鎖されましたが、依然として多数の海賊版サイトが存在し、相当数のアクセスが確認されています。写真集・文芸書・専門書、ビジネスソフト、ゲーム、学術論文、新聞などさまざまな種類の著作物において被害が発生し、クリエイター・コンテンツ産業に回復困難な損害が生じる恐れが生じ、喫緊の対応が求められました。

令和2年著作権法改正は、こうした海賊版サイトにつき対策を講じるべく、規制を強化したものです。以下、著作権法の条文は、単に条文番号のみ記載するものとします。

第2. 令和2年改正前の規律

令和2年改正前著作権法の下でも、権利者の許諾なく、インターネット上に漫画や小説等を掲載することは違法と考えられていました。著作物をスキャンする行為は複製権(21条)を、データファイルをアップロードする行為は公衆送信権(23条1項)を侵害するからです。著作権侵害は、民事上の差止請求や損害賠償請求の対象となるばかりでなく、刑事罰の対象にもなります(119条1項)

そのため、「はるか夢の址」に掲載されている個々のリンク先にあるコンテンツを権利者の許諾なくアップロードした行為、「漫画村」のサイトに漫画をスキャンしてアップロードした行為は、法改正がなければ取り締まれなかったというものではありません。

しかし、「リーチサイト」のサイト運営者に対しては、第三者が違法に著作物をスキャンしアップロードしたサイトのリンク先を掲載しているに過ぎず、自らスキャンやアップロードを行っていないため、著作権侵害を問えないのではないかという点が問題になりました。「はるか夢の址」については、サイト運営者とアップロード者に共謀が認められ、サイト運営者についても複製権及び公衆送信権違反を問える事案でしたが、「リーチサイト」はそれ自体において侵害コンテンツに誘導する点で悪質です。そのため、リンク掲載行為の違法性について、議論が進められていました。

また、日本の著作権法が及ばない国にサーバを置いているサイトでは、侵害者の特定が困難な場合もあります。「漫画村」のサーバはウクライナにありましたが、アメリカのプロバイダを利用してサービスを提供しており、当該プロバイダを通じて侵害者の特定にこぎつけることができました。政府が「漫画村」への接続遮断をプロバイダに要請しアクセス自体が困難になったため、サイトは閉鎖へと追い込まれ、その後運営者と他実行犯には、著作権違反の罪で有罪判決が下されています(執筆時現在)。このように「漫画村」の侵害者の特定には成功しましたが、全てのサイトについて特定できるとは限りません。

そこで、令和2年著作権法改正では、海賊版に利用者を誘導する行為そのものが、規制対象となり、ネット上に無断掲載されたコンテンツを侵害コンテンツと知りながらダウンロードする行為が違法とされ、悪質な場合には刑事罰が科されることとなりました。この規制により、「漫画村」のようなサイトに対する抑止力が期待されます。

第3. 改正点

海賊版サイト規制に関する改正点は、以下の通りです。

  • ・リーチサイト規制(侵害コンテンツへのリンク情報等を集約したウェブサイト)対策(113条2項〜4項、119条2項4号・5号、120条の2第3号等)
  • ・ダウンロード違法化(30条1項4号・同2項、119条3項2号・同5項等)

このうち、リーチサイト規制は令和2年10月1日、ダウンロード違法化は令和3年1月1日より施行されます。

◆ 1.リーチサイト規制

(1)規制内容

リーチサイト規制は、「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導する」ウェブサイトやアプリ、「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられる」ウェブサイトやアプリ(これを「リーチサイト」、「リーチアプリ」といいます(以下総称して「リーチサイト等」ということがあります)。113条2項1号・同2号)を規制するものです。

既述のとおり、権利者の許諾なく著作物をスキャンし又はアップロードする行為は、改正前から違法です。今回の改正は、それらの行為に加え、リーチサイト等を運営等する行為を刑事罰の対象とし、リーチサイト等において侵害コンテンツへのリンクを掲載する行為等を、著作権等を侵害する行為とみなして、民事上・刑事上の責任を問えるようにしたものです。他方、今回、自ら直接的にサイト運営やアプリ提供を行っていない「プラットフォーム・サービス提供者」(注1)には、基本的に改正後の規制が及ばないことが、条文上明記されました(119条2項4号・同5号)。

(2)刑事罰に関する附則

このほか、附則に、刑事罰の運用については、インターネットを利用して行う行為が不当に制限されることのないよう配慮しなければならないと明記されています(附則4条)。

【改正のポイント】

リンク提供者

  • 差止請求・損害賠償請求の対象となる
    • ※リンク先が侵害コンテンツであることにつき故意・過失がある場合に限る
  • 刑事罰
    3 年以下の懲役・300 万円以下の罰金(併科も可)
  • 親告罪

サイト運営者又はアプリ提供者

  • 刑事罰
    5 年以下の懲役・500 万円以下の罰金(併科も可)
  • 親告罪
  • 差止請求
    • ※侵害コンテンツへのリンク提供等を認識しつつ放置する等の場合、個々のリンク提供等につき差止請求の対象となる

上記の「親告罪」とは、被害者による告訴がなければ起訴することができない罪をいいます。権利者が刑事罰を求めたいのであれば、告訴する必要があります。

◆ 2.ダウンロード違法化

(1)規制内容

著作権法は、私的に使用する目的で複製する行為を適法としていますが(30条1項)、改正前より、音楽・映像については違法にアップロードされた著作物のダウンロードが規制されていました(私的使用目的であっても違法とされ、刑事罰の対象となっていました)。令和2年著作権法改正は、この規制対象を、音楽・映像から著作物全般(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラムなど)に拡大するものです(30条1項4号、同2項)。

この改正内容は、ユーザーを規制するもので、アップロード者への規制を強化したわけではありません。「漫画村」のような海賊版サイトへの対策として不十分だと思われるかもしれませんが、「違法化・刑事罰化がされた場合にはダウンロードを「やめる」・「減らす」と回答した者の割合が9割以上に上った」というアンケート結果(注2)により、海賊版サイトの台頭への抑止効果が期待されています。

規制拡大にあたり、海賊版対策としての実効性確保と国民の正当な情報収集等の萎縮防止のバランスを図る観点から、法は規制対象を限定しています。具体的には、規制の対象を違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合に限定すると共に、@「軽微なもの」、A「二次創作・パロディ」、B「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」のダウンロードを規制対象から除外しました(30条の2)

(2)除外される対象

@「軽微なもの」とは、全ての著作物について、分量によって判断されます。漫画なら●コマ、小説なら●ページと指定できるものではなく、何コマの漫画か、何ページの小説かによって異なります。例えば、数十ページで構成される漫画の1コマ〜数コマ、長文で構成される論文や新聞記事などの1行〜数行、数百ページで構成される小説の1ページ〜数ページであれば、軽微だと考えられています。一方、漫画の1話の半分程度、1コマ漫画の1コマ、論文や新聞記事の半分程度、絵画や写真など1枚で成るものについては、軽微と認められない可能性が高いと思われます。

また、絵画・イラスト・写真などは、分量だけでなく画質も判断基準となり得ます。画素数が低く、それ自体では鑑賞に堪えないような粗い画像(サムネイル画像等)であれば、軽微といえそうですが、鮮明な画像や高画質の写真は、軽微とは認められないでしょう。

A「二次創作・パロディ」については、著作権法上、二次創作物の作成は、原作者の許諾がなければ違法となります(27条)。また、二次創作物には基本的に原作の権利が及ぶため(28条)、二次創作物をアップロードする行為も、原作者の公衆送信権を侵害します。世の中には多くの二次創作物が出回っていますが、原作者が黙認しているに過ぎず、本来的には違法です。そのため、二次創作者が原作者の許諾なく二次創作物を作成しアップロードする行為は違法なのですが、二次創作者が原作者の許諾なくアップロードした二次創作物については、それが違法にアップロードされたものだと知りながらダウンロードしたとしても、違法とはならないものと規定されました。

B「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」とは、(ア)著作物の種類・経済的価値などを踏まえた保護の必要性の程度、(イ)ダウンロードの目的・必要性などを含めた態様という2つの要素によって、判断されます。例えば、告発サイトに掲載されている犯罪資料を、未然防止の目的で家族に周知させるためにダウンロードする場合は、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があると考えられます。

(3)違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合

インターネット上には、適法にアップロードされたのか、違法にアップロードされたのかが分かりにくいコンテンツも多くあります。このようなコンテンツについてもダウンロードを違法としてしまうと、国民が情報収集に委縮してしまう恐れがあります。そのため、アップロードが適法か違法か分からない場合や、適法な引用だと誤解した場合など、アップロードが適法に行われたものだと誤解した場合には、ダウンロードは違法とならない旨が規定されました。

この点に関して、適法にアップロードされたコンテンツであることがわかるよう、出版社においては,適法サイトに「ABJ (エービージェイ)マーク」というマークを表示することで、適法サイトの判別を容易にする取組が進められています(後述(5)附則3条)。

(4)刑事罰

刑事罰については、特に悪質な行為に限定する観点から、@正規版が有償で提供されている著作物に対象を限定し、A反復・継続してダウンロードを行うことを要件としています。民事責任(差止・損害賠償)よりも要件が厳しく定められています。

(5)附則

このほか、本法律の附則において、国民への普及啓発・教育の充実(附則2条)、関係事業者による適法サイトへのマーク付与の推進(同3条)、リーチサイト規制と同様の刑事罰の運用に当たっての配慮等(同5条)、施行後1年を目途としたフォローアップ(同6条)、違法アップロード対策の充実(国際連携・国際執行・民間との協働など。同7条)を規定し、運用面からも国民の懸念・不安等に対応していくものとされています。なお、音楽・映像の違法ダウンロードは、従前と同様に規制されます(今回の改正によって、規制が緩やかになるものではありません)。

【改正のポイント】

差止・損害賠償請求 刑事罰
対象 【対象】
違法にアップロードされた著作物全般(※)
【対象】
違法にアップロードされた著作物全般(※)で、正規版が有償で提供されているもの
【対象外】
  • @「軽微なもの」
  • A「二次創作・パロディ」
  • B「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」
要件 違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合
継続的に又は反復して行う場合
特記
  • ・2年以下の懲役
  • ・200 万円以下の罰金(併科も可)
  • ・親告罪
※音楽、映像を含む著作物すべて。

第4. 学生に伝えたいこと

デジタル化時代の到来により、誰でも簡単に、さまざまな情報にアクセスできるようになりました。他方、便利さの裏で、誰もが違法な行為に出てしまうリスクも増えています。

実際に、「漫画村」に関しては、ユーザーにおいて違法性が認識されていなかったのではないかと疑われるエピソードがあります。出版社には無料のネット版が出るのはいつかといった問い合わせがなされ、『はるか夢の址』には、“面白くないコンテンツには金を払う必要はありません。これがネットの自由なんです”との宣伝文が掲載されていました。インターネットが当然に存在し、既に海賊版サイトが出回っていた世代においては、コンテンツは無料であるとの認識が生まれても不思議ではありません。海賊版の登場により、「漫画や雑誌はネットでタダで読める」といった“ 誤解”が蔓延していたのも事実なのです。今回の改正は、こうした“誤解”を正し、海賊版サイトの抑止効果を期待するものです。

重要なのは、法律の細かい規律ではなく、なぜこのような法律ができたのか、法律は何を禁止しようとしているのかといった、法の趣旨を理解していただくことだと考えます。今回のような、海賊版サイトについて、出版社や漫画家に経済的な被害が生じることは容易に想像がつくと思います。しかし、海賊版サイトが横行することの悪影響は、それだけではありません。どれだけ時間と労力を費やして素晴らしい漫画をかいても無料で読まれてしまい、それにみあった収入が見込めないのであれば、漫画家になる夢を諦めてしまう人が出てくることが想定されます。『NARUTO』、『ONE PIECE』や『進撃の巨人』といった名作が、今後生まれなくなってしまうかもしれないのです。若い世代には、ある者の行為が及ぼす影響を、多角的な視点をもって、想像する能力を養っていただきたいと思います。

今回は、学生の皆様にお伝えすることが最終目標であるため、海賊版サイト対策のうちダウンロード違法化を重点的にご説明いたしました。また、令和2年の著作権法改正は、海賊版サイト規制以外の内容も含みますが、本稿では触れておりませんので、ご興味のある方は文化庁のウェブサイト等をご確認いただければと思います。


( 注1) プラットフォーム・サービス提供者
例えば、Youtubeの特定のチャンネルがリーチサイトに該当する場合のYoutube全体を管理するGoogle
  • 出典:文化庁のホームぺージ
    令和2年通常国会 著作権法改正について「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律( 説明資料)」12 頁参照。
( 注2) アンケート結果
  • 出典:文化庁のホームぺージ
    令和2年通常国会 著作権法改正について「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律( 参考資料)」12、13 頁参照。