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令和4年4月1日、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。この記事を読まれている方の中には、既に成人となった生徒を担当している公民科・家庭科の先生や、生徒が悪質商法のターゲットになる心配をお持ちの方もいらっしゃると思います。今こそ、学校で消費者教育を進めるために、法律の考え方のポイントを知っておきましょう。
生徒の日常生活には契約があふれています。契約とは、法律的に守られる約束のことです。たとえば、お店で買い物すること、電車やバスに乗ること、自動販売機でジュースを買うこと、全て契約です。契約を理解することは自分の身の回りをより深く理解することです。
法律の考え方を知っておくことによって、事業者側の説明をうのみにせず、「あれ、おかしくない?」と立ち止まることができます。
また、困った事態に陥ったり、悪質商法の被害に遭ってしまった後でも、「何か良い策があるかも」「どこかに相談しよう」と発想する糧となります。そして一歩踏み出せば、救済される可能性につながります。
法律的なものの見方をもって商品やサービスを選択したり、悪質商法に加担しないよう注意したり、相談や情報提供をして政策に寄与することで、より良い社会をつくることができます。
契約は、契約の「申込み」の意思表示と「承諾」の意思表示が合致したときに成立します。
たとえば、生徒がお店で服を選び、店員さんに「これください」と伝え、店員さんが「はい」と答えたら、その時点で契約は成立します。
契約が成立すると、契約内容にしたがって当事者双方に法律的な権利と義務が発生します。
たとえば、先ほどの例では、生徒は選んだ服を受け取る権利を持ち、代金を支払う義務を負います。他方で、お店は、代金を受け取る権利を持ち、服を渡す義務を負うことになります。
このように、契約は当事者双方に法律的な権利と義務を発生させるので、いったん成立すると拘束され、一方的に内容を変更したり、解約したりできません。つまり、契約は守らなければなりません。これを「契約の拘束力」と言います。
たとえば、生徒が別の店でもっと安く同じような服を見つけたからと言っても、勝手にキャンセルすることはできません。他方で、お店は他のお客がもっと高く買うと言っても、生徒に対しては代金を上乗せして請求できません。
契約は口約束でも成立します。契約書は、契約の成立や契約内容の証拠になるものです。
たとえば、部屋を借りるとき、賃貸借契約書という書類を作成することが多いですが、賃貸借契約自体は契約書がなくても成立します。
ただ、どのような権利を持ち、義務を負うのか、明確な証拠があるほうが良いので、きちんと内容を確認して、契約書を作りましょう。
契約の拘束力は、社会における信頼関係をつくるためにも必要です。
もし、契約による義務が果たされない場合は、権利を持つ者は、民事訴訟を起こして、強制的に権利を実現してもらえます。
一般的に見て、消費者と事業者とでは知識や経験、交渉力に大きな差があります。事業者によっては、いったん契約を成立させてしまえば拘束力があるため、消費者に対して大袈裟な広告や強引な勧誘を用いてでも、契約をするという意思表示をさせようとする危険があります。
ですから、どのような契約をするか、きちんと検討して慎重に判断する必要があります。
でも、契約は常に守らなければならないのでしょうか?次に考えてみましょう。
この問題は、「そもそも契約に拘束力が認められるべきでない場合があるのでは?」という問題と「拘束力のある契約からの離脱が認められる場合があるのでは?」という問題に分けて考えることができます。
まず、契約に拘束力が認められる根拠は、当事者が契約について自分自身できちんと判断して意思表示したことです。ですから、きちんと判断ができない状態で意思表示をした契約について、拘束力は認められるべきではありません。
次に、いくらいったんきちんと判断して契約していたとしても、当事者の一方がその義務を果たさない場合にまで、他方がその義務を果たすべきとは考えられません。このような場合には、拘束力のある契約からの離脱が認められるべきです。
実は契約については、『民法』という法律で、売買契約や消費貸借契約などの典型的な13種類の契約や当事者がハッキリ言葉にしなかった場合の契約内容を補充するルールなどが定められています。
この『民法』などにおいて、契約の拘束力が認められるべきではない場合の「取消し・無効」や契約から離脱できる「法定解除」の手当がされています。
「取消し」「無効」は、きちんとした判断ができない状態で意思表示がされた場合など、契約に拘束されるべきではない場合に意思表示の効力を最初からなくすものです。
「無効」は、最初から全く効力が発生せず原則として誰でも主張できます。
「取消し」は、いったん有効に成立した契約について、取消権者が取消しという意思表示をすることによって遡って無効になるというものです。取消権は、取消権者が「追認」できるときから5年で時効によって消滅しますので注意が必要です。
きちんと判断して意思表示をした契約について、当事者の一方がその義務を果たさない場合に相手方が一方的にその契約関係を終了させられる制度が民法で定めている「解除」です。
では、次に、「取消し・無効」や「法定解除」の具体例を見ていきましょう。
勘違いによって自分が考えていたことと違う内容の意思表示をした場合です。たとえば、インターネット通信販売で、本1冊を購入しようとして11冊と入力してしまった場合。
嘘をつかれて、その嘘を真実と思い込んで契約をした場合です。
公の秩序・一般的な道徳に反するとして無効になる場合です。たとえば、ヤミ金融の金利契約など。
消費者と事業者との契約に関し、不当な勧誘があった場合に、消費者と事業者の力の差に配慮して複数の類型が定められています。たとえば、「絶対儲かる」という断定的判断の提供があった場合や、勧誘を受けている場から「もう帰りたい」と言ったのに帰してもらえなかった場合などです。
消費者契約法は民法に対する特別法であり、被害状況によって法改正がなされ、規制が追加されていきますので、トラブル解決には正確な最新情報が必要です。
消費者と事業者との契約に関し、不当な条項を無効とするものです。たとえば、「入会金はいかなる事情があっても返金しません」という条項が含まれている契約をしても、その条項は無効となる可能性があります。
路上で「アンケート」と声をかけられたり、SNSで「お茶しよう」と誘われたり、無料セミナーを受けられるなど、本来の目的を隠した勧誘によって、事務所に行ったら突然有料の契約をさせられた場合や、脱毛や語学教室・マルチ商法などトラブルの多い特定のサービスについてクーリング・オフ制度が定められています。契約をした後でも法定の書面を受け取ってから一定期間はクーリング・オフの意思表示をして、契約の拘束力から逃れることができます。
特定商取引法も特別法であり、被害状況によって法改正がなされます。また、クーリング・オフ期間が過ぎたとしても他の取消方法を使えるケースも多いので、事業者に「もうクーリング・オフはできない」などと言われても、慌てずに消費生活センターに相談しましょう。
@成年年齢が引き下げられた後でも、18歳未満の未成年者は、親など法定代理人の同意がなければ契約をすることができません。もし同意なく契約した場合は、後から取り消し、契約の拘束力から逃れることができます。これが民法で定めている「未成年者取消権」です。
未成年者は契約に対する経験も知識も判断能力も未熟で、きちんと判断して意思表示をすることができないため、一律に保護されているのです。
Aただし、小遣いの範囲で買い物したり、たとえば定期代などと使途を定めて親が渡したお金で定期を買ったりするなどは、同意なく行うことができ、取り消すことはできません。
また、未成年者が自分は成人しているなどと嘘をついて信じさせて契約した場合も、取り消すことはできません。
この点、自分の年齢を申告する際に間違いなく行うべきなのは当然ですが、事業者に言われて「成人」などの欄にチェックさせられただけでは取消しできる場合もありますので、事業者に言いくるめられないようにしてください。
@取り消すことができる契約でも、追認すると取消しができなくなります。
追認には、きちんと判断して意思表示をする方法もありますが、義務を履行したり権利の請求をした場合、追認に該当すると民法で定められているところに、注意が必要です。
A18歳未満の未成年者の契約について言うと、未成年者自身が成人した後で追認したり、法定代理人が追認したりした場合に取り消せなくなります。
たとえば、17歳の時に契約をして取消しを申し出ていない契約について、18歳になってから契約金の一部でも払うと取り消せなくなる怖さがあります。微妙なケースで請求されても、即断・独断せず、消費生活センターに相談してください。
契約による義務を果たせないことを「債務不履行」と言い、次の3つの類型が考えられます。
契約の期日までに契約内容が実際に行われなかった場合のこと。たとえば、タレントのライブチケットを公式サイトで購入したが、当日までにチケットが届かない場合。
契約内容は実行されたが、不完全な内容である場合のこと。たとえば、公式サイトでチケットを4枚購入したが、事業者側のミスで3枚しか届かなかった場合。
契約内容が実行される可能性が無い場合のこと。たとえば、ライブチケットを購入したタレントグループが当日までに解散してしまった場合。
これらの場合、解除の意思表示をして一方的に契約から離脱することができます。事例内容によっても異なりますので、消費生活センターに相談しましょう。
これは生き物である人間として当たり前のことです。なにかおかしい、こんなはずじゃない、と思うのは、恥ずかしいことではなく、抱え込まないためのサインです。
「三人寄れば文殊の知恵」と昔から言われています。平凡な人でも3人が協力すれば良い知恵が出るという意味です。ましてや、法律的な事項や悪質商法については、正確な知識や最新情報をふまえた対処が大切です。
消費生活センターに寄せられた相談は、個人情報に配慮されたうえで、行政による注意喚起や新法制定・法改正に活用されます。
もし、生徒から具体的なケースについて質問されたら、まず、声をあげたこと自体を褒めてあげてください。そして、契約は原則として拘束力があるが救済策も設けられていること、経緯や対応にもよるので一概には言えず、インターネット上の情報は玉石混交なので信頼できる機関に相談しよう、と説明して、消費生活センターにつないであげてください。
東京都消費生活総合センターでは新たにWeb版消費者教育読本「大人になる君へ 社会で役立つ契約知識」を作成しています。ポップアップ式の漫画を読みながらクイズに答えたり、公民科・家庭科の授業それぞれに対応するワークシートなどを使ったりして、以上の内容を学んでいただけます。ぜひご活用ください。